半側空間無視における視覚情報の取り込みと内部表象
半側空間無視というのは、多くは右半球損傷で著明となり左側の空間をうまく認知できなくなる障害ですが
この半側空間無視というのは神経心理学的にはどのような要因が考えられるのでしょうか。
今日取り上げる論文は、半側空間無視患者を対象に様々な神経心理学的検査を行い、どういった要因が半側空間無視症状に関わっているのか、
またこれらの要因が患者の回復にどのような影響を与えているのかについて調べたものです。
研究ではまず40名の半側空間無視患者を対象に様々な神経心理学的検査を行い、その結果を統計学的処理を施して2つの要因を引き出しています。
一つは視覚情報のスキャン(読み込み)要因で、これは目の前に広がる視覚情報をどの程度拾えるか、拾えないかに関わるような要因です。
もう一つは内部表象要因で、これは脳の中に取り込んだ視覚情報をもう一度脳内で再現する時にうまく再現できるかどうかに関わるような要因です。
半側空間無視に関わる文献を読んでいると、ミラノの大聖堂を半分しか思い出せない症例の話が出てきますが、ああいったのが内部表象の障害になります。
これら2つの要因をくくりだしたあと、他の半側空間無視患者27名を対象に、患者のADLの予後にどのような影響を与えるかについて、発症初期、3ヶ月、6ヶ月で調べているのですが、
興味深いことにこれら2つの要因の両方が身体機能的予後(歩行など)よりもセルフケア能力の予後を高く説明可能であったことが示されています。
つまり半側空間無視は外界情報の読み込み要因の問題、もしくは内部表象要因の問題として現れ、
この2つの要因は運動能力よりもセルフケアに関わるようなものの予後に強く影響するということで
それゆえ自宅復帰を考える時には半側空間無視は大きなネックになるのかなと思いました。
参考URL:Analysis of the syndrome of unilateral neglect.
【要旨】
半側無視を示す40名の右半球損傷脳卒中被験者を対象に様々な臨床的尺度を用いて、神経心理学的障害に関して比較を行った。 この研究の結果は、半側空間無視は複雑な症候群であり、この疾患を示す対象は系統的には異なっている可能性があるという見解を支持するものである。 無視症候群には少なくとも2つの要因がある。それは、外部刺激の取り込みに関わる要因と、空間要因の内部表現における要因である。40名の対象者から得られたこれら2つの要因は、他の27名の右半球損傷脳卒中患者群において脳卒中後6ヶ月での機能的独立と相関していた。 最も一般的には、これらの要因が併存して古典的な無視症候群を形成していると考えらるが、理論的にはそれらは別々に発生する可能性もあり、この治験は医療的管理に示唆を与えるものである。
コメント
無論この2つの要因というのは別々に現れるのではなく、ミックスで現れるということも書かれているのですが、
この2つでスッキリ説明されると概念的にわかりやすいなと思いました。