悲しい音楽は悲しい感情を引き起こすか?
人の歴史と音楽の歴史というのは同じくらい古いものだと思うのですが、音楽というのは軍楽にしろ国歌にしろ、教会音楽にしろ、人の心を動かすことに使われてきました。
なかでも悲しい音楽というのは悲しい感情を誘発することが経験的に知られてきましたが、なぜこのような現象が起こるかについては心理学者の間で2つの見解があるようです。
一つは悲しい音楽を聞いて悲しくなるのは経験学習による認知的なものであり、悲しい出来事に紐付けられた音楽というのは、ベルの音を聞いてよだれを垂らすパブロフの犬のように後天的に学習された認知学習的なものであるという立場、
もう一つは悲しい音楽を聞いて悲しくなるのは、音楽そのものに悲しい感情を誘発する要素があるからだという感情主義的立場なのですが、
はたしてこの2つはどちらのほうが正しいのでしょうか。
今日取り上げる論文は、悲しい音楽が悲しい感情を引き起こすメカニズムについて調べたものです。
実験では120名の被験者を4群に割り振り
一つは、被験者自らが選んだ被験者に馴染みのある悲しい音楽を聴く、
一つは、実験者が選んだ、被験者にとって馴染みのない悲しい音楽を聴く、
もう一つは実験者が選んだ、感情的にニュートラルな音楽を聴く、
さらにもう一つは被験者に過去の個人的な悲しい出来事を思い出させるという課題を行い、
これらの課題でどの程度悲しくなるのか、またどのような性格傾向の人がどの程度悲しくなるのかについて調べています。
結果を述べると
- 自分の思い出に関連した馴染みのある悲しい音楽のほうが悲しい感情を誘発しやすい
- 性格的に共感性の高い人は悲しい音楽を聴くとそれが馴染みのあるものでもないものでも、悲しい感情が引き起こされやすい
ということが示されています。
つまり悲しい音楽を聞いて悲しい気分になるのは、認知的要素と感情的要素の2つが関与しているということで、
悲しい思い出を数多く経験してきた共感性の高い人というのは、悲しい音楽にハマりやすいのかなと思ったり、
あるいは悲しい音楽を作るには認知的なところと感情的なところの2つに働きかけなければいけないのかなと思いました。