ときめきの脳科学:脳内報酬系での変化とは?
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はじめに

「ときめき」を感じるツボは人それぞれである。アイドルを見て胸が高鳴る人もいれば、私のように論文を見てキュンキュンする人もいる。しかし、ときめきを感じている時、脳の中では何が起こっているのだろうか。今回の記事では、ときめきで引き起こされる脳活動について調査した研究を紹介したい。

化粧品による脳活動の変化

人間は条件づけられた生き物である。例えばパブロフの犬を思い出してほしい。ベルの音と餌を同時に与えられることで、ベルの音だけで涎が出るようになったあの実験である。犬を笑うのは簡単だが、私達の脳も同じように反応する。怖い上司の足音がすれば心臓がドキドキし、スロットでリーチがかかれば胸が高鳴る。

いくつかの研究で、化粧をすることで、ときめきが引き起こされることが報告されているが、ある実験では化粧品を見た時の脳活動について調査している。

この実験では、女性被験者16名(24~47歳、平均年齢36.1歳)に、魅力的な化粧品とそうでない化粧品を交互に見せ、その時の脳活動をfNIRSを使用して評価している。

Asai et al., 2022, Fig

 

また同時に、その化粧品の画像を見た時の「ときめき」についても回答させている。ちなみにこの「ときめき」評価については以下の記事を参考にしてほしい。

結果として、魅力的な化粧品を見ているときには、「ときめき」スコアも高かったが、脳活動では前頭眼窩野と呼ばれる領域の血流量が増加していることが示されている(Asai et al., 2022)。

Asai et al., 2022, Fig 5

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前頭眼窩野は感情脳と理性脳のつなぎ目にある脳領域で、価値判断を行う時に活動する領域である。またこの領域はスイーツやお酒のような嗜好品を見たときにも活動することが分かっている。こういった結果を考えると、魅力的な化粧品を見て、胸がときめいているときには、脳が「価値あり!」と反応しているとも考えられる。

アイシャドウが引き起こす脳内変化

またアイシャドウの種類によって脳活動が変わることを示した研究がある。株式会社コーセーによる研究では、日本人女性被験者15名(平均年齢22.0±1.0歳)を対象に、いくつかの条件でアイシャドウをした顔を見ている時の脳活動をfMRIを使用し測定している。

この実験では、以下の条件の組み合わせ(4×2×2の16種類)で顔写真を見せ、その好みの程度と脳活動について調べている。

・アイシャドウの種類(好きな色 / 嫌いな色 / どちらでもない色 / 使ったことがない色)

・顔写真 (自分の顔 / 他人の顔)

・マスク (あり/ なし)

木村ら, 2023年, 図1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として、他人の顔よりも自分の顔の方が好ましく評価され、また自分の顔については、目だけが強調されるマスク無しのほうがマスクありよりも好ましく評価されている。

そして脳活動について見てみると以下の変化が生じることが示されている。

・好きなアイシャドウをつけている時の自分の顔を見たときには、嫌いなアイシャドウをつけているときと比べ、背側線条体の活動が高まる。

・好きなアイシャドウをつけているマスクありの自分の顔を見ているときには、嫌いなアイシャドウをつけているときと比べ、腹側線条体と後部帯状皮質の活動が高まる。

・どちらでもないアイシャドウをつけている自分の顔を見ているときは、嫌いなアイシャドウをつけているときと比べ、線条体と側坐核の活動が高まる。

木村ら, 2023年, 図10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これらの領域は、欲望を高めるシステムである脳内報酬系や自己意識に関わるデフォルト・モード・ネットワークを構成する領域である。お気に入りのアイシャドウというのは、これらの領域に働きかけ、ドーパミンを分泌させ、自己意識を変える効果があるのかもしれない。

まとめ

このように化粧品を見ることや化粧をすることで胸がときめき、脳活動も変化する。特に報酬系はテンションを高める働きがあることを考えると、トキメキは覚醒が高まる心理状態とも取ることができる。

また報酬系は「欲しい!」という心の叫びを駆り立てる領域でもある。断捨離を勧めた本では、トキメキの有無を取捨選択の基準としていた。トキメキと脳内報酬系の関係を考えれば、その方法は妥当なのかもしれない。とはいえ、付き合いの長い連れ合いや馴染みの喫茶店のように、トキメキ以外にも価値があるものある。トキメキだけが人生ではないのかもしれないが、その気持は大事にして生きていきたい。

【参考文献】

Asai, H., Yamamoto, A., Igarashi, T., Hirose, O., & Hasegawa, S. (2022). The Feeling of Tokimeki: Happiness Spice Stimulating Brain Activity. Journal of Society of Cosmetic Chemists of Japan, 56(1), 47-52. https://doi.org/10.5107/sccj.56.47

木村孝行, 藤原寿理, 大塚千恵, 東竜太, 永福智志, 萩野亮,  五十嵐啓二, 増渕祐二. (2023). アイシャドウの色の好みに関わる脳活動: fMRI による検討. 日本顔学会誌, 23(2), 69-80. https://doi.org/10.11459/kaogaku.23.2.69

 

 

 

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