目次
オキシトシンと愛情の脳科学
オキシトシンという女性ホルモンがあります。
これは原義的には子宮を収縮させるという意味があるのですが(出産時に赤ちゃんがなかなか出てこないときに使うこともあります)、
これは単に子宮を収縮させるだけでなく、女性をお母さんに変える働きがあります。
具体的には出産の前後でオキシトシンの濃度が高まることで、赤ちゃんを愛する力が増え、世話を焼きたがりたくなり、赤ちゃんの感情を汲み取る能力が高まります。
このオキシトシンは母性を強化するだけでなく、男性女性含めヒトの社会性全般に関わり、
他者との絆、とりわけ身近な他者である妻または夫との関係性に強い影響を及ぼします。
今回は母性愛と夫婦愛に関わるオキシトシンの効果に絞って、関係する研究を取り上げていきたいと思います。
オキシトシンと母性愛:子育ての観点から
触れることの生理学:手当ては人を癒やすか
「友情は喜びを倍に、不幸を半分に」といったのはドイツの詩人のようですが
確かに独りでいるよりも、時に慰めてくれる誰かの存在というのは辛さを減らしてくれるような気がします。
しかしながらこういった気分の背景にはどういった生理学的な裏付けがあるのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンの総説になります。
参考URL: Oxytocin, vasopressin, and human social behavior.
このオキシトシンが増えるとヒトは穏やかに、優しく、愛情深くなることが知られています。
この論文によると
大事な人に優しく触ってもらうだけで、愛情ホルモンであるオキシトシンが増え、ストレス耐性が増すことが述べられています。
こういった現象は触ってもらわないとダメなようで
横で頑張れ頑張れと声掛けしてもらうだけではこういった効果は出ないそうです。
子育てをしていて時に子供が抱っこをせがんでくるのは、こういった生理学的な背景があるのかなあと思ったり、
あるいは愛する人に触れてもらうということは、きっと動物レベルで大事なんだろうなと思いました。
しつけの脳科学
子どもをどうやってしつけるかというもは古今東西どこでもみられる普遍的な課題だと思うのですが
ヒトはなぜ子どもをしつけるにあたって褒めたり叱ったりするのでしょうか。
この論文は学習と感情的なフィードバックの関係について調べたものですが
やはり機械的な無感情なフィードバックより
笑顔や怒り顔でフィードバックした方が学習効果が高まることが報告されています。
参考URL: Oxytocin enhances amygdala-dependent, socially reinforced learning and emotional empathy in humans.
さらに愛情ホルモンで知られるオキシトシンを摂取することでこの感情サインに気づきやすくなり、より学習効果が高まることが述べられています。
実験ではオキシトシンの摂取で笑顔のフィードバックにも怒り顔のフィードバックにも同じ程度反応しやすくなったとは述べていますが
オキシトシンは愛情を感じるような場面で分泌されることを考えると
学習効果だけを考えるのであればやはり
褒める→愛情ホルモンのオキシトシンが出やすくなる→感情的なフィードバックに気づきやすくなる→学習がより促進される
ということで
やはり叱るよりも褒めるをベースにしたほうがよいのかなあと思いました。
子連れ狼の生理学
どうも馴染めないことばの一つにイクメンというものがありますが、父性度の高い人と低い人では生理学的に何か違いがあるのでしょうか。
この論文は父性行動とホルモンの関係について調べたものです。
対象になったのはオキシトシンとプロラクチンと呼ばれる女性であれば出産育児に関わるホルモンなのですが
男性においてもこれらのホルモンが多いほど、子どもとの関係性が密であることが示されており
特にプロラクチンは父と子が協力して何かを探索行動することに関わることが示されています。
父と子が何かを探索して旅に出たり冒険したりというのにはプロラクチンが関係しているのかなと思いました。
何が愛情の濃さを決めるのか
愛情ホルモンオキシトシンというものがあります。
これが多ければ多いほどヒトは愛情深くなり、ストレスに強く、立ち居振る舞いも上手になるというなんだか都合の良いホルモンなのですが
これが多い少ないを決定づけるものは何なのでしょうか。
この論文はオキシトシンと親との関係について探ったものです。
結論を述べると親との関係性が良好であるほどオキシトシンの値が高いことが示されています。
遺伝子その他も絡むとは思うのですが親の愛情というのは文字通り血肉になるのかなと思いました。
母の強さとオキシトシン
「女は弱し、されど母は強し」といったのはフランスの文豪だそうですが、母猫を見ても母性というのは愛情と激しい攻撃性の二つで一組になっているようなきがするのですが、これはいったいなぜでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンと女性の関係について調べたものです。
参考URL: Effects of intranasal oxytocin on emotional face processing in women.
この愛情ホルモンオキシトシンは一般に出産や養育に関わってヒトを愛情深い生き物に変化させるホルモンと言われています。
男性を対象にした実験からはこのオキシトシンを取ることで脳の中の不安・攻撃中枢(扁桃体)の働きを和らげ、ヒトを穏やかにするのではないかと考えられてきたのですが
対象を女性だけに絞って研究を行ったところ
女性においては男性とは逆にオキシトシンを摂取することで扁桃体の活動が高まり、情動的な刺激へ反応しやすくなることが示されています。
夜寝ていても、赤ちゃんの泣き声というのは母親は敏感に気づき、父親はのんきに寝ているというのはよくある構図だと思うのですが
こういった構図の背景にはオキシトシンの働き方の男女差があるからかなあと思いました。
ホルモンはヒトを信頼するために何ができるか
「身を任せる」という日本語があります。
子供というのはパパやママに「たかいたかーい」と空中に身を投げられては笑っていられますが、
なぜ私たちはこの子供のように「身を任せる」という行動が取れるのでしょうか。
これはひとえに「信頼」という不思議な感情があるからでしょう。
一瞬先のことは分からないし、人の心もどう変わるかは分からない。それにも関わらず人に身を任すことができる。こういった非合理的な行動の背景には「信頼」という感情の故ではないでしょうか。
この論文は愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンと信頼感の関係について調べたものです。
参考URL: Oxytocin increases trust in humans.
このオキシトシンは母性行動全般に関わってヒトを優しくするはたらきがあることで知られているのですが
この論文によるとオキシトシンを吸入することでヒトはより容易に他者を信頼するようになるそうです。
このオキシトシンは触れたり触れられたりというフィジカルコミュニケーションで増すことも知られていますが
親子間や夫婦間での信頼感というのは、こういった触れ合いの経験も関係しているのかなと思いました。
育児遺伝子は存在するのか?
仕事のセンスや芸術のセンス、スポーツのセンスというものがよく言われます。
こういったセンスがある人はそれほど努力しなくても人並み以上の結果が出せるのに、こういったセンスが欠ける人は習熟に人並み以上に時間がかかったりすると思うのですが
果たして育児のセンスというものはあるのでしょうか。
この論文は育児に関わる能力、具体的には自分の子どもへの感受性(気づき能力)と遺伝子の関係について調べたものです。
参考URL: Oxytocin receptor (OXTR) and serotonin transporter (5-HTT) genes associated with observed parenting.
結論を述べるとやはり子どもへの気づき能力に関わる特定の遺伝子があるようで、またその中でもある種のタイプは感受性の低さと関連していることが報告されています。
遺伝子だけで全部が決まるとは思いませんが、やはりあらゆる技能と同様に育児センスのようなものがあるのかなと思いました。
あなたはその子を愛せるか?:出生前からわかる母子関係
「わたし、いいお母さんになれるのかしら」
というのは初めて妊娠した女性やまだ妊娠を経験していない女性が共通して抱く不安のように思われるのですが、果たして「いいお母さん」になれる、なれないは生まれる前からある程度推測可能なのでしょうか。
この論文は妊娠中の愛情ホルモンオキシトシンと出産後の母子関係について調査を行ったものです。
結論を述べると妊娠初期3ヶ月でオキシトシンレベルの高い女性は出産後もやはり子どもと良好にコミュニケーションが取れていたことが示されています。
オキシトシンレベルだけで母子関係が決まるとは思いませんが、やはり「お母さん適性」のようなものはあるのかなあと思いました。
ミラーニューロンとオキシトシン
「ココロがわかる」とは言いますが、私たち人間はなぜ触ることも覗くこともできない他人のココロを理解することができるのでしょうか。
こういった心の理解には脳の中でもミラーニューロンシステムというものが関わっているのではないかと考えられています。
これはごくごく端的にいうとモノマネのためのシステムで
他人の動きを自分の脳の中に取り込んでしまうようなシステムではないかと考えられています。
こういったモノマネシステムは意識せずとも無意識に働いてくれているようで
それゆえ他人の動きを見ることで相手が何をしようとしているのか察することができるようです。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンとミラーニューロンシステムの関係についてのものになります。
参考URL: Intranasal oxytocin modulates EEG mu/alpha and beta rhythms during perception of biological motion.
この愛情ホルモンオキシトシンは出産や養育に絡んでヒトを愛情深く社会性豊かにしてくれるはたらきがあるのですが
このオキシトシンを摂取することでミラーニューロンシステムの働きが高まる可能性があることが脳波を使った研究で示されています。
子育てするにあたっては子どもの様子を敏感に察する必要があるのですが
こういった「察し」能力はミラーニューロンシステムに負うところが大きく
オキシトシンというのはこのミラーニューロンシステムの働きに関わって「察し」能力を高めるのかなあと思いました。
なぜあなたは風邪を引かないか?:愛と免疫の生理学
かまってくれないと寂しいウサギみたいに死んでしまうというのはウソか本当かは分かりませんが、寂しさと健康というのは関係があるのでしょうか。
長年不良少年を取材してきたある人は愛情に不足した彼らは異常なほど体が弱くちょっとしたことですぐ病気になると言っています。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンと健康の関係について調べたものです。
参考URL: Marital behavior, oxytocin, vasopressin, and wound healing.
この愛情ホルモンオキシトシンは子供の頃親との関係が良くないとその後の人生においても充分産生されないことがあるようですが
実験ではやはり体内のオキシトシンレベルが高いほど傷の治りや免疫に関わる機能が良好であったことが示されています。
オキシトシンで全てが決まるとは思いませんが、愛情不足と健康というのはどこかでつながっているのかなと思いました。
何が父性で何が母性か?
親が子どもの面倒を見るのは自然な行動のように思えますが、親と言っても父親と母親がいて、父性もあれば母性というものもあります。
しかしながらこの父性と母性の違いというのはいったいどの辺にあるのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンと父性・母性の関係について調べたものです。
参考URL: Oxytocin and the development of parenting in humans.
結論を述べるとオキシトシンレベルが高いほど養育行動も密になるようなのですが
母親の場合は赤ちゃんの声真似をしたり優しい声掛けをしたりという優しい働きかけであるのに対し
父親の場合はくすぐったり、動かしたり、一緒に物を探したり、見せたりという刺激的な養育行動とオキシトシンレベルが関係していたそうです。
つまり父親にしろ母親にしろオキシトシンレベルが高いほど世話焼きになるのですが、
母親は優しく内に向かうような働きかけをするのに対し、父親は刺激的で外部へ向かうような働きかけをするということで
養育における内向きと外向きのベクトルの違いが父性と母性の違いなのかなと思いました。
なぜ「たかいたかい」はヒトを幸せにするのか
私はタイミングがずれてしまったのかやらずじまいでしたが、
この「たかいたかい」というのは親も子も幸せにする作用があると思うのですが、これは生理学的にはどのように考えられるのでしょうか。
この論文は信頼感と愛情ホルモンオキシトシンの関係について調べたものです。
参考URL: Oxytocin is associated with human trustworthiness.
実験ではお金を使ったやり取りゲームをするのですが
被験者はより多くのお金の運用を任された時ほど(信頼された時ほど)
高いオキシトシンレベルを示すことが述べられています。
つまりヒトは信頼されることで愛情ホルモンが放出されるということで
「たかいたかい」をするということは、子どもから無条件に身を任される(信頼される)ということであり、このことがオキシトシンレベルが高めて、愛情深く幸せな感じになるのかなと思いました。
オキシトシン:夫婦愛編
信じるものは騙される:愛情ホルモンと特殊詐欺
特殊詐欺の被害金額は昨年500億円を突破したらしいですが、なぜこうもヒトは身内を語った詐欺に引っかかりやすいのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンと信頼行為の関係について調べたものです。
このオキシトシンというホルモンは出産や養育に関わってヒトを優しく愛情深くする作用があるのですが
この論文では、このホルモンを摂取することで多少騙されても、お金を与え続けうることが示されています。
参考URL: Oxytocin shapes the neural circuitry of trust and trust adaptation in humans.
というのもオキシトシンを摂取することで、不安/恐怖脳(扁桃体)の活動が弱くなり
その結果、多少騙されても騙され続けるという行動を取るようです。
特殊詐欺は身内を語ったり、仲間意識を植え付けたり、古典的なものでは結婚詐欺というものもありますが、
これらに共通するのは身内・仲間・愛情というオキシトシンが絡みそうなものであり
愛情・信頼を強化するオキシトシンが出やすい状況に持って行ってから騙しにかかるというのが詐欺の肝になる部分なのかなと思いました。
夫婦関係の生理学
所帯を持てば、最も身近な他人は妻ないし夫ということになるのですが、はたしてうまくいっている夫婦とうまくいっていない夫婦というのは生理学的にどのような違いがあるのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンとカップルの関係性について調べたものです。
この愛情ホルモンオキシトシンは、出産や養育に関わって、ヒトを優しく和やかにする働きがある社会性ホルモンなのですが
この研究によると、オキシトシンを摂取することでカップルの間の言い争いが少なくなって、ストレス反応も低下することが報告されています。
このオキシトシンを生み出すためには、食事を一緒に食べたり、一緒に寝たりというのが大事なようで
うまくいっている夫婦といってない夫婦の違いというのはそのへんなのかなと思いました。
なぜ男は単身赴任先で浮気をするのか
よく聞く話に単身赴任先で不倫がおこって家庭崩壊というものがありますが,なぜ男は単身赴任先で不倫に走りがちになるのでしょうか.
この論文は孤独な環境がつがいの形成とその後の性行動にどのような影響を与えるかについてマーモセットを使って調べたものです.
結果を述べると有意な差までは出なかったようですが,マーモセットを孤独な環境に置くことでツガイ相手と密接な関係を作りやすいこと,この原因としてストレスホルモンの一種であるコルチゾールが影響していること,さらにはメスの方が実はオキシトシンと呼ばれる社会性ホルモンの影響で関係形成初期にツガイ相手との関係が燃え上がりやすい(密接になりやすい)ことが述べられています.
案外単身赴任中気をつけなければいけないのは旦那の浮気ではなく取り残された妻の浮気なのかなと思いました.
孤独と寿命とオキシトシン
一般に妻に先立たれた旦那は長生きできないともいわれていますが、これは生理学的にはどのように説明できるのでしょうか。
カラダの中にはいろんなホルモンがいろんな働きをしているのですが、その中の一つに愛情ホルモンの異名をもつオキシトシンというものがあります。
このホルモンはヒトを優しく社交的にするはたらきがあるのですが、
これは単に感情の傾向を変えるだけでなく自律神経系に働いて心臓の働きを整える役割があるようです。
この論文はオキシトシンの効果と寂しさを比べたものですが
寂しさの程度が強ければ強いほど、オキシトシンが心臓の働きを穏やかにする働きも弱くなるようです。
参考URL: Oxytocin increases autonomic cardiac control: moderation by loneliness.
つまり寂しさはオキシトシンの心臓調整効果を帳消しに近い状態にもしてしまうということで
独り身の寂しさが残された旦那の心血管系を弱めてしまうのかなと思いました。
ラブドラッグはどこまできくのか
「隣にいる人が好きで好きでたまらなくなる」という働きがある合成麻薬MDMAが話題になったのは、ある俳優が関係した死亡事故だったと思うのですが、これはいったいどういうものなのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンに関する総説になります。
参考URL: The peptide that binds: a systematic review of oxytocin and its prosocial effects in humans.
ヒトを優しくしたり、仲良くさせたり、いろいろなはたらきがあるそうですが
エクスタシーとも呼ばれる合成麻薬MDMAはオキシトシンの代謝に大きく関係して多幸感や愛情感を生み出すことが述べられています。
はたして愛情というのはいったいなにものなのかなと思いました。
なぜ私たちは仲直りできるのか?男女で異なるケンカ調停ホルモン
夫婦喧嘩は犬も食わないともいいますが
ケンカと言ってもいつまでも続くわけではなく、時間が立てばそれなりに仲直りができると思うのですが、なぜ私たちはパートナーを許すことができるのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンと男女の関係性について調べたものになります。
愛情ホルモンの代表的なものとしてはオキシトシンというものが知られているのですが、男性においてはバソプレッシンと呼ばれるオキシトシンとよく似た作りのホルモンがあるそうです。
この論文によるとパートナーとの関係性にストレスを感じている人ほど、このストレスを解消するためなのか愛情ホルモンが増加し
女性であればオキシトシンが、男性であればバソプレッシンが増えていることが示されています。
カラダというのは本人の意志を超えたところで仲直りを手助けしてくれているのかなと思いました。
オキシトシン:コミュニケーション編
他者の眼と自分の脳:見つめることの脳科学
「目は口ほどにものをいい」という言葉がありますが、ヒトの顔色をうかがうに相手の目を見ることはとても大事になってくるかと思います。
しかしながら相手の目を見るのは私にとっては正直ストレスフルなのですが、目をまっすぐ見られる人と苦手な人では脳の働き方はどんな風に違っているのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンについてのものになります。
参考URL: Oxytocin and the salience of social cues
このオキシトシンは産科では子宮の収縮を促すのに使うこともあるホルモンなのですが、一般に出産や育児に絡んでヒトを愛情深く社会性を深めるホルモンとして知られています。
この論文によるとオキシトシンを投与された被験者というのは他人の目をよく見られるようになるそうです。
脳の中には眼を動かすための中枢のようなところがあるのですが
オキシトシンが増えることでこのへんの働きが変わってくるそうです。
もう少し詳しいことを書くと
眼を動かす中枢は恐怖中枢ともつながっているのですが
この恐怖中枢の反応を変えることで眼を動かす中枢を働きやすくしているのではないかということが述べられています。
恐怖中枢ーーー動眼中枢ーーー眼球運動
(扁桃体) (中脳上丘)
↑
オキシトシン
もし恐怖によって眼を動かしにくいのであれば
「眼を見なさい!」と強く迫るのは逆効果なのかなと思いました。
あなたが優しいのはなぜか?寛容さの脳科学
世の中気前のいい人から悪い人までいろいろいると思うのですが、気前の良い人というの脳というのは具体的にはどんな風に人と違うのでしょうか?
この論文は寛容さの影響因子について愛情ホルモンオキシトシンを使って調べたものです。
参考URL: Oxytocin increases generosity in humans.
愛情ホルモンオキシトシンというのは子どもの出産養育に関わってヒトを優しく愛情深くする役割があり
これを鼻から吸入することで共感能力がアップすることが知られています。
この論文ではこのオキシトシンを取ることで寛容性がどれくらい変わるかについて調べたのですが
結論を述べると約2倍近く寛容性が上がって金銭ゲーム実験でも金払いがよくなったことが示されています。
この寛容性に関わる要素としては
共感能力だけでなく、持ち前の利他性もあったようで
その人の寛容さというのは
寛容さ=共感能力+利他的性格
で説明できるのかなあと思いました。
できる営業マンの脳活動とは?
営業の仕事というのはまだやったことはないのですが、果たして出来る営業マンというのはどういったキャラクターなのでしょうか。
いつも笑顔で、相手も嫌そうな顔を見ても凹まず、ポジティブな表情には敏感で、常に相手の目を見てハキハキと受け答えできる、そんなひとがいわゆるできる営業マンということになるのでしょうか。
こういったできる営業マンの脳というのはいったいどんな風にできているのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンと脳活動について詳しく調べたものです。
参考URL: Different amygdala subregions mediate valence-related and attentional effects of oxytocin in humans.
この愛情ホルモンオキシトシンはヒトを社会的にするはたらきがあるようで、具体的な効果としては
①ポジティブな表情に敏感になる
②相手の目をしっかり見られるようになる
というものがあるのですが、これと脳活動の関係について調べています。
結論を述べるとオキシトシンを取ることで、感情中枢の一つである扁桃体の活動が変わること、
またこの扁桃体の中でも①ポジティブな表情への敏感さと②相手の目をしっかり見ることに対応する二つの小さな領域があることが述べられています。
こういったことを考えるとできる営業マンというのはひょっとしたらオキシトシン濃度が高く、感情脳の活動もヒトとは少し違うのかなと思いました。
北風と太陽 男のコミュニケーションと女のコミュニケーション
女性というのは、はたから見ていると決して表面だっては争わない生き物だと思うのですが、これは生理学的にはどういうふうに考えられるのでしょうか。
この論文は社会性ホルモンについての総説になります。
参考URL: Neuropeptides and social behaviour: effects of oxytocin and vasopressin in humans.
社会性ホルモンというのはヒトが他人と関わる上で気持ちや神経の様々なことを調整するホルモンなのですが
代表的なものとしては今まで取り上げてきたように愛情ホルモンオキシトシンがよく知られています。
ただこれとは別に男性用社会性ホルモンというべきバソプレッシンというものもあります。
これは見知らぬ他者や恐ろしい相手に対して攻撃的になるようなホルモンなのですが(ヤンキー漫画で睨み合いをしているような時出るようなものです)
不思議なことに同じホルモンを女性に与えると
ストレスフルな相手に対して優しい行動を取るように惹起するはたらきがあるようです。
嫁姑でもないのですが、仲が悪いはずの二人の女性が一見和やかにコミュニケーションをとるのは、このへんが関係しているのかなあと思いました。
まなざしとこころの生理学
他者のまなざしによってヒトは社会的な存在になるといったのはフランスの哲学者だったと思うのですが、
それにしても、まなざしというのは多量な情報を含んでおり
人の気持ちを察するには相手の目を見ることが非常に重要になってくるのではないかと思います。
この論文は愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが人の気持ちの読み取り能力を高めるかどうかについて調べたものです。
参考URL: Oxytocin improves “mind-reading” in humans.
実験では眼差しを示した写真から心の状態を探るテストをオキシトシンを摂取して行ったのですが
やはりオキシトシンを摂取することで心の読み取り能力が高まることが示されています。
男性と女性を比べた場合、女性のほうが心の読み取り能力に優れるようなきがするのですが
こういうのもオキシトシンが関係しているのかなと思いました。
あなたを魅力的に見せるには?
恋には演出が必要だとも言いますが
自分のことをより良く見せる場というのは何も色恋場面にかぎらず、商談の場や初めて患者さんのところへ向かう場などいろいろあると思うのですが
自分のことをより良く見せるためには生理学的にどのようなことが大事なのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンについてのものです。
このホルモンはヒトを優しく愛情深くし、恐怖感を抑制することが知られているのですが
このホルモンを多量に摂取した場合、見知らぬ他人の第一印象がより魅力的になることが示されています。
オキシトシンを初対面の相手に摂取させるのは難しいにしても
オキシトシンが出やすいタイミング(穏やかに談笑・会食している時やペットと触れ合っている時など)で顔を合わせることで第一印象というのは大分良くなるのかなあと思いました。
逃げる/戦うプラス・ワン
秋田の方言では「仲間に入れて」というのは「かてて」というのですが、小さいころ私はこの「かてて」が言えず切ない思いをしてきました。
一般に動物は見知らぬ何かに出会った時には「戦う/逃げる」という選択肢を取るそうですが
ヒトというのはもう一枚カードを持っていて「仲間に入る」という選択肢を取ることができます。
見知らぬ何かと仲良くなるためには本能的な不安や恐怖を越えていかなければならないのですが、これを越えていくために脳の中の愛情ホルモンオキシトシンが後押しをしてくれるそうです。
この論文はこのオキシトシンについての総説ですが
参考URL: Tend and Befriend: Biobehavioral Bases of Affiliation Under Stress.
パートナーとうまく言っていなかったり、親との関係が良くなかったり、職場で孤立しがちなポジションにいたりという社会的ギャップを抱えている女性のほうが、オキシトシンレベルが高いことが書かれており
なぜこんなことがおこるかというと
社会的ギャップを感じる
↓
これを解消したい!
↓
オキシトシン放出!
↓
仲良し体質になる!
というように
孤立した状態を抜け出て仲間に入りやすいようにオキシトシンのレベルが上がるのではないかということが述べられています。
ヒトのからだというのはうまい具合にできているなあと思いました。
あなたの励ましは患者の脳をどう変えるか
リハビリの仕事をしていると、患者さんを上手に励ませるかどうかというのが大事なことになってくるのですが
この励ましの力というのは生理学的にどのように捉えることができるのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンと励ましの相互作用についてのものです。
結論を述べると励ましを与え、かつオキシトシンを与えることでストレス反応が少なくなること、
またオキシトシンは体内の量だけでなく、
それをいかに上手に代謝できるかという機能も大事で
励ましによって体内のオキシトシン代謝システムが変化し、より効率的に愛情ホルモンオキシトシンを使えるようになるのではないかということが述べられています。
励ましというのは体の仕組みを変える力があるのだなあと思いました。
一目惚れの脳科学
一目惚れという言葉があります。
一度あっただけで恋に落ちてその人が忘れられないというのは、人生一回くらいはあるかと思いますが、なぜ私たちの脳はそんなにも好きな人の姿を焼き付けてしまうのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンと顔の記憶の関係について調べたものです。
参考URL: Oxytocin makes a face in memory familiar.
脳内ホルモンの中にはヒトを愛情深くし、ヒトとつながりやすくする、いわば愛情・友情ホルモンのようなものがあり、これはオキシトシンと呼ばれています。
この研究で被験者にオキシトシンを摂取させたところ、やはり顔の認識・記憶機能が高まったそうです。
無論一目惚れそのものを説明したものではないのですが、
一目惚れで顔が焼きつくというのも瞬間的に愛情に関わるオキシトシンが放出されて記憶機能が高まるからかなあなどということを考えました。
あなたには見えているか?:「察する」力の生理学
世の中には社会性のある人ない人様々ですが、これを図る力の指標の一つに「察する」力というのがあるのではないかと思います。
パタパタ動きまわる上司を見て「忙しそうだな」と察する力、
ちょっとした目の動きから「契約する気はなさそうだな」と察する力、
ちょっとした話しぶりから「今だったら打ち明けてもよさそうかな」と察する力
・・・などなど枚挙にいとまがないと思うのですが、なぜ私たちはこんな風に他人の気持ちを「察する」ことができるのでしょうか。
「察する」要因は色いろあると思うのですが、一つは視覚でしょう。
相手のさりげない仕草、カラダの動かし方から相手が何を求めているか、相手が何を感じているかをサッと検知する。
つまりは武道家が相手の動きから意図を読み取るように、目でもって相手の動きを読み取る、このことで相手の気持を理解することができる、そういったことがあるのではないでしょうか。
この論文はこの「動きを読み取る力」と愛情ホルモンオキシトシンの関係について調べたものです。
参考URL: Oxytocin enhances the perception of biological motion in humans.
この愛情ホルモンオキシトシンは出産や養育に関わってヒトを愛情深く、優しく、また社会性を高める役割があり、近年自閉症者への投与実験もされているホルモンなのですが
このホルモンを摂取することで「ヒトの動きを読み取る力」が高まることが示されています。
育児にあたっては、子どもの様子からいろんなことを「察する」必要があるのですが、愛情ホルモンオキシトシンはこういったことにも一枚噛んでいるのかなあと思いました。
オキシトシンと精神疾患との関わり
統合失調症、月経周期、オキシトシン
女性を見ていると一定のリズムで機嫌の良い時と悪い時があるなあと思うのですが、これには月経周期に伴う様々なホルモン分泌が関係しているそうです。
この論文は愛情ホルモンの名前で知られるオキシトシンと統合失調症の症状の関係について調べたものです。
このオキシトシンは他のホルモン同様、月経周期のリズムで分泌が変わってくるそうですが
やはりというか、月経周期のあるタイミングでオキシトシンの分泌量が増える時期には統合失調症の症状が和らぐことが報告されています。
気分、感情、情動というものを考えるときには内分泌のこともよく考えなければいけないのかなあと思いました。
ヤマアラシのジレンマ:境界性人格障害と愛情ホルモン
ツンデレという言葉が認知されてからずいぶん経ちましたが、
私たちは時に愛情を抱く相手に攻撃的な行動をとってしまうことが少なからずあるのかと思います。
この論文は境界性人格障害者と愛情ホルモンオキシトシンの関係について述べたものです。
参考URL: Oxytocin can hinder trust and cooperation in borderline personality disorder.
この境界性人格障害者は安定した人間関係を築けなかったりする状態を示すそうですが、
通常愛情を増し信頼感や協力行動を引き出す愛情ホルモン、オキシトシンを摂取するとかえって、信頼感を低下させ協力行動を低下させるという真逆の結果が出ることが示されています。
相手が好いてくれるか好いてくれないかという不安定、不安感にまみれた足場の上で愛情ホルモンが上増しされると
ヒトは時として不安感に傾いて攻撃的な行動をとってしまうのかなあと思いました。
誰があなたを抱きしめるのか?精神療法とオキシトシン
最近良くきくことばに愛着障害というものがあります。
これは小さい頃に養育者としっかりとした愛着関係を持てないと、それをおとなになっても引きずって人間関係にひずみをきたしてしまうような状態のようなのですが、これは生理学的にはどのように捉えることができるのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンの名前で知られるオキシトシンが愛着という感情にどのような影響を与えるかについて調べたものです。
参考URL: Effects of oxytocin on recollections of maternal care and closeness
このオキシトシンは出産や養育に関わるホルモンで人を優しく愛情深くさせる効果があると言われています。
実験ではこのオキシトシンを摂取して被験者に小さいころのお母さんとの思い出を回想してもらいます。
すると親との関係が良好であった被験者はより強くお母さんの愛情を思い出したのに対して
親との関係性が良好ではない被験者は、反対により低くお母さんとの愛情を想起したそうです。
もう少し端的にいうと
オキシトシンを摂取することで「愛された」感も「愛されなかった」感も強くなるということで
オキシトシンは原初の母子関係をより強化するはたらきがあるのではないかということが述べられています。
愛する人と適切な愛着関係が結べないという人は、ひょっとしたら原初の母子関係とオキシトシンシステムに何かしら異なった点があるのかなと思いました。
うつ病とオキシトシンのバイオリズム
人間誰しも調子のいい時と悪い時があるようですがこれはいったいなぜでしょうか。
要因としては色いろあるとは思うのですが、一つの要因として体内ホルモンが増えたり減ったりというのが影響しているようです。
これはうつ病の時でも一緒で、朝のうちは調子が悪いけど夕方から夜は比較的よいというのにはどんなホルモンが影響しているのでしょうか。
この論文は愛情ホルモンオキシトシンとうつ病のバイオリズムについて調べたものです。
参考URL: Preliminary evidence that plasma oxytocin levels are elevated in major depression.
結論を述べるとうつ病になるとオキシトシンの分泌量が増えること、
そしてその傾向は深夜に顕著であることが示されています。
その昔、うつ真っ盛りの頃、深夜2時や3時に起きると割合調子が良いなと思って超早寝早起きに生活リズムをずらしていたことがあったのですが、オキシトシンやコルチゾールの変動グラフを見る限り、理にかなっていたのかなと思いました。
孤独と愛情ホルモン
最近巷で聞くようになったホルモンにオキシトシンというものがあります.
これはヒトを愛情深くするホルモンで,
このホルモンが増えることで
ココロが穏やかになり,社会性が増し,面倒見が良くなるなどいろんないいことが起こります.
このホルモンは主に女性が母親になる前後で大きく増えてヒトを「母親化」させる役割があるのですが,孤独に追い込まれたヒトのオキシトシンはどのように変化するのでしょうか.
この論文は,一夫一妻の性質を持つ草原ハタネズミを対象にしたもので,孤独と抑うつ症状,ホルモン変化について調べています.
実験では
①20匹の雌の草原ハタネズミをペアになっている雄から引き離し,60日間1匹で過ごさせる.
②対照条件として別のネズミを同じ飼育条件で60日間ペアで過ごさせる
②餌への反応(抑うつ症状)やホルモン調整細胞の変化を調査し,孤独ネズミとペアネズミを比較
という方法で調べているのですが
やはり彼氏から引き離して独りにしたメスネズミでは餌への関心が薄れるなどの抑うつ症状が出てきて
それに加えてオキシトシン放出細胞の数が増えたことが示されています.
今回はネズミを使った実験ですが,ヒトを対象にした研究でも孤独な状況に置かれた人間はオキシトシンを増やそうとする傾向があるようで
これはオキシトシンが増えることで,抑うつ的な症状に対抗し,かつ社会性を増して孤独な環境から脱出するためではないかということが言われています.
寂しさから浮気に走るというのはよく聞きますが
寂しさから逃れられるようにココロとカラダが変化するというのは動物としての性なのかなと思いました.
環境、絆、オキシトシン
仕事柄、日中おじいさんおばあさんと関わる機会が多いのですが、
昔ほどではないにしろ、時に「同期の桜」などの戦歌がかかることがあります。
そんなおじいさんからは戦争の話や戦友との思い出を聞くこともありますが、こういった強い絆が出来上がる背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
今日取り上げる論文は愛着や愛情の形成に関わるホルモンについての総説になります。
参考URL: Neuroendocrine perspectives on social attachment and love.
愛着や愛情の形成に関わるホルモンの代表的なものとしてはオキシトシンが知られているのですが
動物は一般にストレスフルな環境に置かれると愛着や愛情の形成に関わる様々なホルモンを放出し
その結果、個体間の社会的な絆が作られやすくなることが述べられています。
戦場にしろ、職場にしろ、研究室にしろ
時にハイプレッシャーな環境で人と人のつながりが強くなるのはこういった働きがあるのかなと思いました。
オキシトシンと愛情・コミュニケーション:まとめ
以上、オキシトシンと愛情に関わる研究を取り上げてきましたがいかがでしたでしょうか。
オキシトシンの分泌を増やすことで
夫婦の関係性は改善し、子育ての苦労も減り、
育てられる子供もすくすくと健康に育っていけることがいろいろと報告されています。
しかしながら誰かを愛するということは誰かを愛さないということと同じであり、
オキシトシンにも様々な副作用があることが知られています。
オキシトシンのネガティブな側面についての研究は以下にまとめてありますので興味のあるかたはどうぞ。