感情と脳科学:感情を脳から読み解くことはできるのか?
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はじめに

私達人間は感情の生き物です。喜んだり悲しんだり怒ったりと、一日忙しく感情は変化していきますが、この感情を読み解く方法はあるのでしょうか?脳を調べることで感情を読み解けるのではないかという考えは長い歴史を持っており、今でも盛んに研究が行われています。この記事では脳と感情について述べられた論文をいくつか紹介したいと思います。

感情と脳の対応とは?

感情と脳の関係については古くから様々なモデルが提案されてきました。曰く、脳の中には感情に特化した部分がある、曰く、右半球こそが感情脳である、などなどです。ケンブリッジ大学のMurphy博士らの研究グループは、感情と脳活動について調査された研究論文106件のデータを使って、それぞれの仮説を検証しています(Murphyら, 2003年)。以下、それぞれのモデルの検証結果について説明します。

モデル①「感情の辺縁系仮説」

脳科学の本をめくっていてよく見るものにマクリーンの三位一体脳モデルというものがあります。これは私達の脳は、

脳幹…爬虫類脳(反射脳)
大脳辺縁系…哺乳類脳(感情脳)
大脳新皮質…人間脳(理性脳)

の三段階でできているというもので、このモデルでは感情は辺縁系と呼ばれる大脳新皮質の下にある領域によって担われると考えられています。

人間の思考と行動における感情の作用: 第2章 感情の適応プログラム

人間の思考と行動における感情の作用 | 第2章 感情の適応プログラム

しかし、実際の感情と脳活動を照らし合わせると、何かしらの感情が生じている時には、大脳辺縁系だけでなく、大脳新皮質も含めた脳全体に分散的な活動が見られることが示されています。つまりこのモデルは感情と脳の関係を適切に表していないということになります。

モデル②「右半球仮説」

もう一つのモデルは右半球が感情脳、左半球が理性脳というものです。これについては未だによく聞くこともありますが、実際のところ感情が生じている時、右半球の活動のほうが左半球よりも高いということもなく、これも感情と脳の関係モデルとして妥当ではないと論じられています。

モデル③「感情の二元処理仮説」

もう一つは肯定的な感情は左脳、否定的な感情は右脳によって処理されるというモデルです。動物の基本的な性向として、好ましいものには接近し、好ましくないものからは離れていくというものがあります。これを反映するように、何かに接近しようとする時には左前頭前野の活動が、離れようとする時には右前頭前野の活動が高まることを示した研究もいくつかあるものの、全体的に見るとこのモデルも実際の感情状態を反映していないことが示されました。

モデル④「感情の情動プログラム仮説」

これは悲しみや喜び、恐怖や嫌悪に対応するそれぞれの脳領域があるのではないかという仮説なのですが、これは部分的には支持される結果となったようです。つまり恐怖には扁桃体、嫌悪には島皮質と淡蒼球、怒りには外側前頭眼窩野というふうに、様々な感情に対応する脳領域があるそうです。しかしながら幸せと悲哀感の脳活動には有意な違いは見られなかったそうです。

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感情における構成主義

上記の論文では、様々な感情に対応する脳領域がある仮説が比較的妥当性が高いと論じられているのですが、近年の研究では、感情の仕組みはより複雑なのではないかと考えられています。脳科学の立場として、それぞれの機能(記憶、感情、判断)に関連する脳の働きがあるという局在論的な立場と、様々な機能は様々なシステムの組み合わせによって生じるという構成主義的な立場があります。近年の研究からは構成主義的な立場が現実の脳の働きを反映している井野ではないかと考えられています(LindquistとBarrett, 2012年)。これは料理で言えば、醤油や酒や塩、みりんによって様々な風味が生じるように、記憶や判断、感情などの心的活動も基本的な脳活動の組み合わせによって生じるのではないかと考える立場です。この立場に立てば、不安や嫌悪といった個々の感情も普遍的なネットワークの組み合わせとして表現される方が妥当ではないかと論じられています。

 

まとめ

このように感情と脳の関係は単純ではないようです。近年ニューロテックの発達で脳から感情が読み取れるようになるとも言われていますが、こういった知見を見る限り一筋縄ではいかないのかなとも思います。感情と脳の関係について調べる前に「感情とはなにか」という議論が必要だとも思うのですが、いかがなものでしょうか。

【参考文献】

Lindquist, K. A., & Barrett, L. F. (2012). A functional architecture of the human brain: Emerging insights from the science of emotion. Trends in Cognitive Sciences, 16(11), 533–540. https://doi.org/10.1016/j.tics.2012.09.005

Murphy, F. C., Nimmo-Smith, I., & Lawrence, A. D. (2003). Functional neuroanatomy of emotions: A meta-analysis. Cognitive, Affective & Behavioral Neuroscience, 3(3), 207–233. https://doi.org/10.3758/CABN.3.3.207

 

 

 

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