半側空間無視はどのようにして起こってどのようにして回復するのか?
臨床現場で遭遇する高次脳機能障害は様々なものがありますが、その中でも頻度が高いものの半側空間無視というものがあります。
この半側空間無視では視界の左右半分(殆どの場合は右半球損傷例での左半分)の様々な刺激に対して注意が向きづらくなり、ご飯を食べ残したり、あるいは左側の障害物に気づかずぶつかってしまったりと
日常生活を営んでいく上で障害になりやすい症状なのですが、この症状はどのように起こってどのように回復していくのでしょうか。
今日取り上げる論文は、サルの脳を人工的に損傷し、半側空間無視症状を引き起こし、その回復がどのようになされていくのかについて調べたものです。
一般に前頭葉には様々な感覚情報が束ねられて送られてくる経路があるのですが、実験では前頭葉のこの太い神経経路を切断し、その後サルの行動がどのように変わってくるのか、また脳の回復はどのように進行するのかについて染色法を用いて調べています。
結果を述べると視覚や体性感覚の無視症状は概ね4週間で回復してくるのですが、
その回復過程の脳の変化を見てみると、発症直後では損傷した前頭葉とつながりを持つ領域が、損傷していないにもかかわらず活動が抑制されていたこと、
また回復の過程でこれらの損傷していない領域の活動の抑制が解除されてきたことが示されています。
電車や高速道路でも主要幹線で事故が起こることで、主要幹線とつながった他の路線でも遅延が生じることがありますが、
それと同じように脳の中の感覚処理の主要経路が損傷されることで、広範な領域の機能低下が生じ、それが半側空間無視の症状を引き起こすのかなと思ったり、
あるいはいわゆる「良くなる半側空間無視」というのは、抑制症状に起因するところが多い半側空間無視なのかなと思いました。
参考URL:Recovery from unilateral neglect.
【要旨】
サルにおいて半側の感覚無視症状の自発的な機能回復が起こることが知られている。本研究では13頭のマカクザルを対象に前頭葉の多重感覚領域を切断しこの症候群を生成した。標準化された行動尺度を使用して、我々は深刻な急性の感覚無視を記録し、その改善の過程をたどった。 2-デオキシ[14 C]グルコースオートラジオグラフィー法を使用して、無視の急性期における皮質下構造の局所的なグルコース代謝の減少を見出したが、前頭部と結合している皮質下領域では減少を認めなかった。自発的な行動回復の後、軽度の局所的なグルコース利用減少が残ったが、これは視床の内側核の背側のみであった。これらの知見は、急性行動症状が損傷した皮質とシナプス関係を有する無傷構造における神経活動の広範な抑制に基づいていることと、それらの構造における神経活動の回復が行動機能の回復を伴うことを示唆している。
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