消去現象と側頭頭頂接合部
半側空間無視のスクリーニングで行うものに患者の両側に指を立て、それを中央から徐々に離していき、どの時点で左側の指が見えなくなるかを調べるものがあります。
半側空間無視の症状が軽い場合であっても、左右に同じだけの視覚刺激が提示された場合、右側の方へ注意が引っ張られてしまい左側の認知ができなくなる現象は消去現象と呼ばれているのですが、
今日取り上げる論文は、この消去現象を利用して半側空間無視患者の注意機能について調べたものです。
被験者は臨床検査上、半側空間無視症状を示さない脳卒中患者で、一つはボトムアップ的な注意(注意の切り替え機能)に関わりが深い側頭頭頂接合部を損傷した群(TPJ)、もう一つは側頭頭頂接合部の損傷を含まない患者(PAR)の2群です。
上図参考URL:https://psycnet.apa.org/buy/1998-00514-003
実験では画面上に左右に2つのボックスが提示され、
最初に一瞬(200msec)左右どちらかのボックス、もしくは両方のボックスが手がかり刺激として輝いた後(手がかりがその後の答えを示す確率は50%(第一実験)および80%(第二実験))、ボックスは消え、
その後少し時間をおいて左右いずれかのボックスが再度現れ、被験者は現れた方のボックスを示すボタンを即座に押すという課題を行わせ、その時の反応時間について調べています。
結果を示すと同じ頭頂葉損傷であっても側頭頭頂接合部を損傷していた場合、左側に提示された手がかり刺激の見落としを伺わせる結果を示したこと、
しかしながらその他のデータを合わせ勘案すると、両群ともに手掛かり刺激に基づく内発的な注意を駆動できていたことが示されています。
つまり側頭頭頂接合部の損傷ではボトムアップ的な注意機能は損なわれる傾向はあったもののトップダウン的な注意は保たれていたということで、
この2つの注意機能はそれぞれ独立して機能しているのではないかということが仮説的に述べられています。
難しいなと思いました。
半側空間無視や反側空間消去のような臨床上の空間的注意障害は、通常、右側の側頭頭頂接合部の病変に関連しているが、最近の研究から上頭頂葉もまた重要な役割を果たすことが示唆されている。 2つの実験で、上側頭回を含む側頭頭頂接合部の病変(TPJ群)、または頭頂部を含むが上側頭葉領域を含まない病変(PAR群)を有する2群の患者を対象に実験を行った 。 TPJでは空間消去的な応答時間パターンが見られたが、PARでは見られなかった。 さらに、両群は、手がかり刺激の予測性という形で期待値情報を使用することができた。これは、別々のメカニズムが注意を転換する際に外因性および内因性プロセスを媒介することを示唆している。
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