説得の脳科学:脳から考える説得の仕方とは?
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はじめに

仕事にしても家庭にしても、誰かを説得するというのは簡単なことではない。しかし、人間は一体どんな時に説得されやすいのだろうか。またその時には脳の中でどのようなことが起こっているのだろうか。今回の記事ではこれらの点についてまとめてみたい。

説得に関わる脳領域

前帯状皮質:一人ぼっちを感じる脳

人の意見を変えさせるためには、いくつかの勘所がある。一つは、皆と同じでありたいという欲求である。皆がラーメンを頼んでいるような場面でハンバーグを頼むというのは座りが悪い。皆から浮いてしまう感覚は決して心地よいものではない。

脳の中では、この居心地の悪さを感じさせる脳領域がある。これは前帯状皮質と呼ばれる領域で、矛盾した情報の検出に働くものである。例えば、愛想のない旦那が妙に優しかったり、顔は老けているのに髪が黒々フサフサしていたりすると違和感を感じる。これは前帯状皮質が情報の矛盾点に反応して警報機のように活動するためである。

 

 

 

 

 

皆がやっていることを自分だけやっていない状況下では、この前帯状皮質が活動することが報告されている。これは自分だけが「浮いている」ことに反応しているのではないかと考えられている。人を口説くときには「皆もやってますよ」というのが定番だが、これはある意味、前帯状皮質へ語りかけているとも言える。

更に興味深いことには、磁気刺激を与えて、この前帯状皮質周辺の活動を下げると、周囲の判断とは関係なく自分の好みを貫く判断がされやすくなることも分かっている(Cascio et al., 2015)。

腹側線条体:仲間意識を感じる脳

周囲の空気に流されるうえで、もう一つ重要なのが側坐核を中心とした腹側線条体と呼ばれる領域である。この領域は大脳基底核と呼ばれる脳の中でも進化的に古い部分にある領域で、私達のモチベーションを支配しているものである。

ケーキにしてもお金にしても、私達が「欲しい!」と思うときには、頭はランランとし、胸は高鳴り、足は前に一歩出そうになる。このようなときには腹側線条体からドーパミンが放出されて、脳活動を大きく変化させている。「皆と一緒」というのは、実はそれ自体がケーキやお金のように報酬になりうる。お揃いのユニフォームを着ていたり、同じ鉢巻を巻いて応援したり、流行りの格好をしていると心地が良い。このような報酬は社会的報酬と呼ばれていて、腹側線条体はこのようタイプの報酬にも反応することが分かっている(Cascio et al., 2015)。

 

 

 

 

 

 

周りのみんながやっているということは、それ自体がケーキやお金のように価値を持つ。そのため、誰かを口説きたかったら実績を積んで業界の一人者のポジションを取ることが有効かもしれない。

扁桃体:不安や恐怖を感じる脳

誰かを説得するには、相手に不安や恐怖を与えることも有効である。脳の中には、生き延びる上で大事な情報を検知する領域がある。これは扁桃体と呼ばれていて、蛇やライオン、死体など、命の危険を感じさせる情報に反応する。

 

 

 

 

 

喫煙者を対象にした研究では、禁煙広告を見たときの扁桃体の活動が高い人は、禁煙行動に繋がりやすかったことが報告されている (Dore et al., 2019)。実際、タバコにはショッキングなメッセージが記載されているが、扁桃体に働きかけるという意味では正しいのかもしれない。

腹内側前頭前野:意志を司る脳

いくつかの研究から、意見が変わるときには前頭前野の一部の活動が変わることが報告されている。これは前頭前野の内側にある腹内側前頭前野と呼ばれる領域である。この領域は広く「こころ」と関連している。例えば喜びを感じている時、自分のことを考えている時、何かを決める時に活動する。

 

 

 

 

 

 

 

先に紹介した禁煙広告の研究でも、扁桃体の活動が高いものほど、腹内側前頭前野の活動も高まり、禁煙行動に繋がったことが報告されている(Dore et al., 2019)。説得というのは相手のマインドを変えることである。そうであれば、やはり心の中枢である腹内側前頭前野の活動も変わってくるのだろう。

背外側前頭前野:説得に抗う脳

脅しや仲間意識にはたらきかけて説得することができればいいが、中には頭が固くて説得が難しい人もいる。たしかに私達が何かを決めるときには感情だけで動いているのではない。理性的に考えて、相手の意見を吟味している。

背外側前頭前野は前頭前野の一部で、理性の中枢とも言える領域である。いくつかの研究から、この背外側前頭前野の活動は感情的な説得アプローチの効果を弱めることが報告されている(Ramsay et al., 2013)。

 

 

 

 

 

 

では、説得に際しては頭を使わせないような取り組みが大事なのだろうか。これについてはケース・バイ・ケースとも言えるだろう。心理学分野の研究では、理性的な判断を経て意見を変えた場合には、その後の意見がたやすく変わらないと考えられている。また知能が高い相手には、感情的なアプローチよりもエビデンスに基づく理性的なアプローチが有効という研究もある。大事な話であれば、膝を交えて、頭も使い、しっかりと話し合ったほうがいいのかもしれない。

まとめ

このように説得に関連する脳領域は様々なものがある。一人ぼっちを感じる前帯状皮質、皆と一緒を希求する腹側線条体、脅しに反応する扁桃体、心の変化に関わる腹内側前頭前野、理性で抵抗する背外側前頭前野などである。脳の基本設計は皆同じだが、そのパラメーター設定は個人個人で異なっている。説得に当たっては相手の特徴と状況を考慮して硬軟織り交ぜて当たっていきたい。

【参考文献】

Cascio, C. N., Scholz, C., & Falk, E. B. (2015). Social influence and the brain: persuasion, susceptibility to influence and retransmission. Current opinion in behavioral sciences, 3, 51-57. https://doi.org/10.1016/j.cobeha.2015.01.007

Doré, B. P., Tompson, S. H., O’Donnell, M. B., An, L. C., Strecher, V., & Falk, E. B. (2019). Neural mechanisms of emotion regulation moderate the predictive value of affective and value-related brain responses to persuasive messages. The Journal of Neuroscience, 39(7), 1293–1300. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1651-18.2018

Ramsay, I. S., Yzer, M. C., Luciana, M., Vohs, K. D., & MacDonald, A. W. III. (2013). Affective and executive network processing associated with persuasive antidrug messages. Journal of Cognitive Neuroscience, 25(7), 1136–1147. https://doi.org/10.1162/jocn_a_00391

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