地位財の脳科学:なぜあなたはそれを欲しがるのか?
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はじめに

地位財という言葉がある。これは自分の地位を示すような財のことである。高級車や高級マンション、衣服や宝飾のハイブランド品などがこれにあたる。

それに対して、非地位財は、生きていくうえで本質的に大事になってくる財である。例えば健康であることや、円満な家族関係、なにかあれば助けてくれる友人などはお金では買えないが、確実に人生を豊かにしてくれる。このことだけをみると、幸せに生きていくためには、何も地位財は必要ないのではないかとも思うが、必ずしもそうではない。なぜなら地位財は自尊心を回復してくれるからだ。

人間、自信がないと生きていても具合が悪い。特に社会的地位が低いと、健康を害しやすくなり、幸福感も低下する。そのため、社会的地位が低いほど、その自信を回復するためなのか、地位財を欲しがるという現実がある、実際、ハイブランド品の主な消費者はミドルクラス以下の人たちであるともいう。

また社会的な状態だけでなく、身体の状態も地位財購入に影響を与えることも分かっている。今回の記事では、地位財と身体の関係について考えてみたい。

地位財と性ホルモン

人体は様々なメカニズムで制御されているが、その中でも重要な役割を果たすのがホルモンだ。セロトニンやドーパミンといったホルモンは馴染み深いかもしれないが、性ホルモンと呼ばれる一群のホルモンも存在する。男性ホルモンのテストステロン、女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンがこれに該当し、心身の男性的特徴や女性的特徴を形成する上で重要な働きをする。

興味深いことに、これらのホルモンレベルの変動は、地位財への欲求にも影響を及ぼす。例えば、男性ホルモンであるテストステロンが上昇すると、地位財購入への意欲が高まるという研究結果がある(Nave et al., 2018)。具体的には、テストステロンを経鼻投与された男性が、高級腕時計への購買意欲を示したという。

女性の場合、高級腕時計を身につけた男性への反応も、女性ホルモンの変動に左右される。排卵日前後、つまり妊娠可能性が最も高い時期には、男性の持つ地位財への評価が上昇する(Lens et al., 2012)。さらに興味深いことに、この時期の女性は男性以上に大胆な行動をとる傾向がある。通常、女性は男性よりもリスク回避的だが、排卵日近くになると、むしろ男性以上にリスクテイキングな行動をとるようになるのだ(Lazzaro et al., 2016)。

一方で、妊娠可能性が最も低くなる月経期近くには、自尊心が最低となり、逆説的に地位財購入への欲求が最高潮に達する(Li et al., 2019)。

これらの性別による変化は、性ホルモンが生存や生殖に関連する感情を調整しているためだと考えられている。一般的に、男性ではテストステロン濃度が高いほど支配欲求が強くなる。そのため、テストステロンの上昇が支配欲求を刺激し、結果として地位財への渇望を引き起こすのではないかと推測されている。女性の場合、妊娠可能性が最も高い時期に社会的地位の高い男性に惹かれ、リスクを恐れない行動をとることは、進化的な観点から見ても合理的だ。そうすることで、妊娠の確率を高め、より良い環境(高い社会的地位)で子育てをする機会を得られるからである。

このように、地位財に対する反応は本能的な側面を持ち、そこには性ホルモンが深く関与していると考えられている。

地位財と脳活動

また、地位財に対する反応は脳活動からも読み取ることができる。いくつかの研究から、ブランド品に対する反応を調べた結果が報告されている。

ある研究では、ブランド品のバッグと偽ブランド品のバッグを見せたときの脳の反応を調べている。実験条件は、本物/偽物とロゴあり/ロゴ無しの掛け合わせの4条件だ。被験者には事前に、それが本物か偽物かが伝えられたうえで以下の画像が示される。

画像
(Zhang et al., 2019, Figure 1)

結果としては、偽物のロゴありを見ていた時には、躊躇いと低評価を示すような脳波が現れたことが示されている(Zhang et al., 2019)。実験結果も興味深いが、実験プロセスも興味深い。実は、この実験では、偽物として示されたのも、本物の商品の画像なのだ。被験者に見せられたのは、偽物の偽物ということになる。つまり、被験者の脳は、画像そのものの情報ではなく、第三者の評価(本物か偽物か)の違いに反応したということになるからだ。

また、ブランドロゴに対する反応は直感的なものであることを示唆する研究もある。ある研究では被験者に好みのブランドロゴと無関心なブランドロゴを見せ、その時の脳活動の違いをfMRIを使って調べている。結果としては、視覚処理の最初の段階での違いが最も大きかったことが示されている(Dos Santos & Dos Santos, 2024)

一般に何かを見るときには、一時に「理解する」訳では無い。目から入った情報は後頭葉の視覚野で基本的な情報(色や形)が処理され、その後側頭葉である種のパターンとして認識され、最終的には前頭前野で「理解する」流れで処理される。

画像

ところが好きなブランドロゴかどうかは前頭前野に入る前の段階である程度違った脳活動を引き起こすというのだ。これでいえば、映画の台詞ではないが、ブランドロゴの認知とは「考えるな、感じろ!」を体現していることになる。

さらに、ブランドロゴに対する反応は、社会的状況によっても変化する。例えば勝負で勝った後というのは、ブランドロゴを見ている時の脳波が大きくなることが報告されている(Yu et al., 2018)。勝負に勝つとテストステロン濃度が高くなるという別の研究結果も踏まえると、ここには性ホルモンの影響もあるのではないかと思いたくなる。

おわりに

このように、ヒトの身体は地位財に対していろんな反応をする。そこには男性ホルモンや女性ホルモンなどが関係していたり、脳波の違いとして示されたりすることもある。このような物言いは露悪的であるような気もするが、洗練され上品なものとして扱われる地位財は、生存と生殖という生々しい本能が具現化されたものなのかと思うこともある。無論、人間は本能なくしては生きていくことはできない。地位財は、肉汁あふれるステーキや若々しい異性と同じように魅力的である。しかし、その付き合いは慎重に図っていきたい。

 

【参考文献】

Lazzaro, S. C., Rutledge, R. B., Burghart, D. R., & Glimcher, P. W. (2016). The Impact of Menstrual Cycle Phase on Economic Choice and Rationality. PloS one11(1), e0144080. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0144080

Lens, I., Driesmans, K., Pandelaere, M., & Janssens, K. (2012). Would male conspicuous consumption capture the female eye? Menstrual cycle effects on women’s attention to status products. Journal of Experimental Social Psychology, 48(1), 346–349. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2011.06.004

Li, A. M., Liu, N., Zhou, L., & Li, F. J. (2020). Defending the Queen’s Pride: Effect of the menstrual cycle phase on conspicuous consumption. Journal of Pacific Rim Psychology14, e11. https://doi.org/10.1017/prp.2019.30

Marques Dos Santos, J. P., & Marques Dos Santos, J. D. (2024). Explainable artificial intelligence (xAI) in neuromarketing/consumer neuroscience: an fMRI study on brand perception. Frontiers in human neuroscience, 18, 1305164. https://doi.org/10.3389/fnhum.2024.1305164

Nave, G., Nadler, A., Dubois, D., Zava, D., Camerer, C., & Plassmann, H. (2018). Single-dose testosterone administration increases men’s preference for status goods. Nature communications, 9(1), 2433. https://doi.org/10.1038/s41467-018-04923-0

Yu, W., Sun, Z., Xu, T., & Ma, Q. (2018). Things Become Appealing When I Win: Neural Evidence of the Influence of Competition Outcomes on Brand Preference. Frontiers in neuroscience12, 779. https://doi.org/10.3389/fnins.2018.00779

Zhang, W., Jin, J., Wang, A., Ma, Q., & Yu, H. (2019). Consumers’ implicit motivation of purchasing luxury brands: an EEG study. Psychology research and behavior management, 913-929. https://doi.org/10.2147%2FPRBM.S215751

 

 

 

 

 

 

 

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