なぜあなたはアートを観に行くのか?認知神経心理学による解釈①
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私達はなぜアートを観に行くのか?

ヒトが絵を描きはじめたのは、文字ができるはるか昔のことのようですが、なぜわたしたちは絵というものに興味を持つのでしょうか?

絵というものはそれ自体では何の役にも立たないにも関わらず、美術展があれば多くの人が足を運び、有名な絵には数億円の価格が付けられます。

なぜ役に立たないものにそれだけのコストがかけられるのでしょうか?

今回取り上げる論文は、私達がアートを鑑賞しているときに、どのような枠組みに沿って評価しているのか、

またその時、脳はどのように働いているのかについて仮説的に述べたものです。

Move me, astonish me… delight my eyes and brain: The Vienna Integrated Model of top-down and bottom-up processes in Art Perception (VIMAP) and corresponding affective, evaluative, and neurophysiological correlates

(私を感動させ、私を驚かせて… 目と脳を喜ばせて: アート知覚におけるトップダウンとボトムアップのプロセスのウィーン統合モデル (VIMAP) と、それに対応する感情、評価、神経生理学的相関)

 

本稿では、

① アート鑑賞に関わる4つの心理的要素

② アート鑑賞で引き起こされる5つの行動パターン

についてこの論文に沿って説明します。

アート鑑賞に関わる4つの心理的要素

私達には食べ物同様、それぞれ芸術に対しても好き嫌いがあります。

ある人が絶賛するような絵を見てもなんにも心に響かないということはよくありますし、

誰も評価しないけれども、自分だけは大好きということもよくあります。

心理学的に考えた時、このような違いはどのようにして出来るのでしょうか。

この論文では芸術を理解しようとするときには4つの心理的要素が関係すると述べています。

 

一つは自分との関連性です。

これは医療従事者であれば、医療や病をテーマにした絵であれば心に響くかもしれませんし、

フランス人であれば、フランス革命を題材にした絵というのは日本人以上に心に響くかもしれません。

もう一つは、自分が捉える枠組みとどれだけ一致しているかです。

芸術に限らず私達は枠組み、フレーム、スキーマというものを持っています。

生徒であればこうあるべき、日本料理はこうあるべき、ロックンロールはこうあるべきなど様々な枠組みを持って対象と向かい合います。

そしてその枠組にあっていれば高く評価し、枠組みから外れていればダメだと評価します。芸術鑑賞においても私達は自分自身の枠組みがあり、それにそって評価すると考えられます。

もう一つは形式的解釈です。

この形式というのはどれだけルールに則っているのかという解釈で、

構成が良い、配色がよい、テーマ選定がよい、などといったクールで知的な評価になります。

最後の一つが感情的解釈です。

これは文字通り、どれほど自分の心が動かされるか、ゾワリとするか、圧倒されるかという感覚による解釈になります。

以下の図はこれらをまとめたものですが、これらの要素の組み合わせから、どのような反応が生じるのでしょうか?

アートによって引き起こされる5つの行動パターン

私達がアートを見るときには、足早に過ぎ去ることもあれば、来たことやお金を払ったことを公開してしまうこともありますし、

あるいは作品の前で立ち止まり、深い観想に浸ることもあります。

これは同じ作品を見ても、その反応というのは見る人によってそれぞれだと思うのですが、

この行動パターンというのはどのようなものなのでしょうか?

またどのような仕組みで様々な行動パターンが現れるのでしょうか?

この点について少し整理して説明します。

私達の5つの行動パターン

もし最近、あなたが美術館に行ったことがあるのならその時のことを思い出してみましょう。

一つのありがちな行動パターンは作品を一瞥して過ぎ去るようなものでしょう。

これは自分には興味のない時代や地域をテーマにしていて(自分との関連性が少ない)、

自分の持っている枠組み(絵や彫刻はこのようなものだという信念)に合致していれば、

ちらりとみて過ぎ去ってしまうという結果になります。これを結果①としましょう。

 

もう一つのパターンは、はっと驚いて足を止めるようなものでしょう。

このようなときには自分の考えていた枠組みとは異なるものが現れた時、スキーマとの一致が低いときにははっと足を止めるようなことも起きるでしょう。

これを結果②としましょう。

 

さらにもう一つのパターンは絵の前で立ち止まり感動に浸るようなものです。

このようなときには、自分との関連性が高いテーマ、母親であれば子供を対象にしたもの、重い病気を経験した人であれば病をテーマにしたものであれば、

おそらく人並み以上にその作品は自分の心と共鳴して深く心が動かされるでしょう。

これを結果③としましょう。

 

ここまでの流れをフローチャートにしたものが以下の図になります。

 

 

ここから進んでもう一つよくあるパターンは、作品を理解できなくて怒り出すか、無視するかでしょう。

自分には関係しているのだけれども、自分の枠組みとは合わないようなものでしょう。

たとえば過去にある芸術家が、アメリカ同時多発テロ事件の際に、あの行為は芸術だといって顰蹙を買っていましたが、

自分には関係していても、自分の解釈の枠組みには合わなくて解釈できないものというのは数多くあります。

こういったものと対峙した場合は、芸術として認めないか、あるいは怒り出すか、どちらかになるでしょう。

これを結果④としましょう。

 

最後の一つのパターンは、自分のものの考え方の枠組みを変えてしまうような作品です。

いままで芸術はこのようなものだと思っていたけれど、世界はこのように捉えてもよいのだと思ったときには深い感動が訪れ、自分のありかたそのものが変わってしまいます。

これを結果⑤としましょう。

ここまでをまとめたフローチャートは以下のものになります。

 

 

ここまでまとめたように、私達が作品と対峙するときには、

結果① 一瞥して足早に過ぎ去る

結果② ものめずらしさに足を止める

結果③ じんわりと感動する

結果④ 作品を否定する

結果⑤ 世界観が変わる

といった5つのパターンがあり、

そのそれぞれは、どれだけ自分と関係しているのか、どれだけ自分の枠組みと合致しているのかといった

大きな2つの軸で判断されていることがわかります。

とはいえ、私達が作品を見ているときにはこのように観て考えるだけではなく、

もっと原初的な認知過程、無意識的な認知過程もあります。

こういった認知過程は認知神経心理学では対象によって駆動されるボトムアップ処理とも呼ばれますが、

これはどのようなものなのでしょうか。

このような過程は作品を見て数秒以内に起こると考えられていますが、次回、この仕組について脳活動との関連にも触れながら説明したいと思います。

今回はフローチャートだけ載せておきますので、興味のある方は覗いてみてください。

【要旨】

この論文は、かなり大胆な目的を持っています.人々がアートに反応する複数の方法を説明し、さらにそれを実証的に研究するための仮説を提供する包括的な理論を提示することです. アートとの相互作用は、説得力があり、時には深遠な心理的経験に基づくことができるという共通の合意にもかかわらず、これらの相互作用の性質は依然として議論されています。私たちは、視覚芸術を知覚して相互作用するときに発生する可能性のあるさまざまなプロセスを解決することを目標に、モデル、ウィーン統合芸術知覚モデル (VIMAP) を提案します。具体的には、これまでの理論的および経験的評価の大部分を形成してきた、アートワークに由来するボトムアップのプロセスを統合する必要性に焦点を当てています。これは、個人が処理経験の中でどのように適応または変化するかを説明できるトップダウンのメカニズムを備えており、したがって、個人がどのようにして特に感動的で、邪魔で、変革的であり、平凡な結果に到達するかを説明することができます。これは、最近のいくつかの理論的研究を組み合わせて、3 つの処理チェックを中心に構築された新しい統合アプローチに統合することで達成されます。これは、アート体験の可能な結果を​​体系的に描写するために使用できると私たちは主張しています。また、モデルの処理段階を感情的、評価的、生理学的要因の特定の仮説に結び付け、挑発的な反応 – 寒気、畏怖、スリル、崇高 – および「美的」と「日常」の感情的反応の違いを含む心理的美学の主要なトピックに取り組みます。

【参考文献】

Pelowski, Matthew et al. “Move me, astonish me… delight my eyes and brain: The Vienna Integrated Model of top-down and bottom-up processes in Art Perception (VIMAP) and corresponding affective, evaluative, and neurophysiological correlates.” Physics of life reviews vol. 21 (2017): 80-125. doi:10.1016/j.plrev.2017.02.003

 

 

 

 

 

 

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