目次
ドーパミンの基本的な働きとは?
私たち人間は波のある生き物です。
気分がアゲアゲの時もあれば、ボンヤリしていたり、どんよりしていたり、なかなか味わい深い生き物なのですが、
こういった気分の上がり下がりには様々な神経伝達物質が関わっており、そのなかでもドーパミンは気分を上げる、覚醒レベルを高める役割を持っています。
覚醒レベルというのは様々な活動の根っこにあり、これが高いか低いかで注意力や学習能力、コミュニケーション能力興味や感動といったものも大きく変わってきます。
今回はドーパミンと認知機能、精神疾患、音楽とのかかわりについての研究をまとめてみましたので、興味のある方はご一読ください。
ドーパミンと認知機能
うっかり屋さんの脳の特徴?
うっかり屋さんというのは私も含めどこにでもいると思うのですが、彼らの脳というのは普通のヒトの脳と違っているのでしょうか。
あるいはこれは生まれつきの要素があって、努力云々の前に先天的に遺伝子で決められているということもあるのでしょうか。
うっかり屋さんというのはよく情報を拾えないということがあると思います。
聞いているようで聞こえてない、見えているようで眼に入っていない、こういたことはいったいなぜ起こるのでしょうか。
この論文は認知機能と遺伝子の関係について調べたものです。
参考URL: DRD4 and DAT1 polymorphisms modulate human gamma band responses.
いっぱんに何かを意識するためには二つの種類の注意が必要と言われています。
ひとつはボトムアップ注意というもので、目の前に蜘蛛がいればとりわけ注意してなくてもハッと気づくような受身的な注意です。
もう一つはトップダウン的注意というもので、これはウォーリーを探せのように自分から何かを探しに行くような能動的な注意になります。
この論文によるとある種類の遺伝子はドーパミンと呼ばれる神経伝達物質を通してボトムアップ注意の敏感性に関わり、
またある種類の遺伝子はやはりこのドーパミンと呼ばれる神経伝達物質を通してトップダウン的注意に関わっていることが述べられています。
つまり
特定の遺伝子
↓
ドーパミンの調整
↓
注意力の調整
↓
うっかり or しっかり
ということでやはりうっかり屋さんはある程度生まれつきの要素もあるのかなあと思いました。
なぜ中年は働き盛りなのか?ドーパミンと認知機能の逆U字仮説
仕事というのは若すぎてもだめ,年を取りすぎていてもだめで40前後の中年期が仕事の脂が乗ってくる時というのは,随分昔から言われているのですが,これはいったいなぜなのでしょうか.
この論文は,ヒトを奮い立たせ行動させるシステムである報酬系と前頭前野の関わりについて,若者と老人でどのように違うのかについて比べたものです.
一般に若いうちはガツガツしていて,年を取ってくると欲望が枯れてくることが知られていますが,これは脳科学的には脳(中脳)から出るドーパミンの量と関係しているようです.
このドーパミンというのは脳のあちらこちらに働きかけて,欲しいものをゲットできるように脳の働きを調整するような働きがあるのですが,これは若いうちは大分多く出て,歳を取ると減ってくる,こういった傾向があるそうです.
この研究では平均年齢25歳の若者20名と平均年齢66歳の高齢者13名を対象にスロットマシン課題を行わせている時のドーパミンの分泌量と知性と関連する脳領域(背外側前頭前野)の関係について調べているのですが
結果を述べると
①ドーパミンの分泌量は若者のほうが多かった
②若者ではドーパミンの量が増えるほど知性に関わる脳活動が低下した
③高齢者ではドーパミンの量が増えるほど知性に関わる脳活動が増大した
という矛盾した二つの結果が出たそうです.
このような矛盾した結果が出た背景として著者らは,ドーパミンと認知機能の間にある逆U字の関係にあるのではないかということを述べており
これはドーパミンが少なくテンションが低くても,認知機能がパッとせず
またドーパミンが多すぎて頭に血が上りすぎていても,認知機能が良くはなく,
ほどほどにドーパミンが出て,ほどほどにテンションが高い時にもっとも認知機能が良くなるという,逆U字の関係になっているということなのですが
このようなシステムが結果②と③の矛盾した現象を説明できるのではないかということが述べられています.
これはあくまで仮説であるので,なんとも言えませんが
ほどほどにドーパミンが出て,前頭前野の活性化が最適化される中年が仕事においても,もっとも適切な判断ができるということもあるのかなあと妄想しました.
ドーパミンと精神疾患
好きな音楽を聞いているときの脳活動は健常者とうつ病患者でどのようにちがうか?
気分が落ち込んで鬱々しているときというのは、好きな音楽を聞いてもなんとなく耳に入ってこない感じがありますが、なぜわたしたちの脳はうつうつしているときには好きな音楽にうまく反応できないのでしょうか。
この論文は好きな音楽を聞いているときの脳活動についてうつ病患者と健常者の違いを調べたものです。
参考URL: Brain activation to favorite music in healthy controls and depressed patients.
実験ではうつ病患者と健常者のそれぞれに好きな音楽と好きでも嫌いでもない中立的な音楽を持ってきてもらい、その音楽を聞いているときの脳活動について調べています。
結果を述べると、健常者では好きな音楽を聞いているときは脳の中の報酬系でありドーパミンの放出に関わる側坐核や腹側線条体に活動の増加が見られたこと、さらに感情と認知の中継する部分である内側前頭眼窩野にも活動の増加が見られたことが示されています。
先行研究からはうつ病患者では好きな音楽を聞いていないときであっても持続的に内側前頭眼窩野の活動が高いため、音楽を聞いたときの増加として示されなかったのではないかということも述べられています。
音楽というのは自分の世界に入ることですが、うつ病の状態というのは持続的に自分の世界に入っている状態なのかなと思いました。
なぜあなたは今日の晩御飯はなんでもよいと思ってしまうのか?
人間,生きていれば調子の良い時も悪いときもあると思うのですが,
調子が悪くて疲れている時というのは気分も投げやりになりがちで,いちいち料理をする気力もわかず,「食べられればなんでもいいや・・」というような気分になってしまいます.
食欲が無いわけではないのだけど,手間をかけてまでおいしいものを食べる気がしない,洋服もいちいち考えておしゃれな格好をするのがめんどくさい,など元気が無いときには,こういったやる気の無さ,モチベーションの低さというものが出てきますが,これはいったいどういった仕組みになっているのでしょうか.
この論文は,ある薬をラットに与えることで,食事におけるモチベーションの低さを誘発したり,それを直したりという実験を行ったものです.
一般にやる気に関わる神経伝達物質としてドーパミンというものがあります.
このドーパミンは神経細胞の中で合成され,それがシナプス小胞に取り込まれて神経細胞外まで運ばれ,放出され,次の神経細胞の末端に受け渡されるという一連の流れがあるのですが,
この実験で使われた薬剤はシナプス小胞への取り込みを阻害するような薬物で,
この薬物をラットに注入することで,食欲は減らないけれども,努力してまで美味しい餌を貰おうとしなくなること,
またこのラットのやる気の無さは,抗うつ薬などで改善できることが示されています.
うつ病チェックリストのなかには「なにをやるにも億劫である」というものがあったと思うのですが,
いまいちやる気が出ないというときには,ドーパミンの代謝がうまくいっていないことを考えたほうがいいのかなと思いました.
神経科学と精神疾患の診断は噛み合っているのか
人類の歴史を振り返ってみると,病気の種類,名称というのは時代が下るに連れて急速に増えてきていると思うのですが,こういった診断の基準になるものは様々にあるようで,
精神科領域では現在,米国精神医学会(APA)が定めるDSM-5(精神疾患の診断と統計の手引き第5版)がもっともスタンダードなものになるそうですが,
このDSM-5は症状主体に分類されており,実際に診断するにあたり,症状が明確でなかったり,あるいは様々な症状が重複する場合(うつ症状と慢性痛,アスペルガーの症状とADHDの症状など),うまく対応できないという問題点もあるそうです.
この論文は,精神障害を理解するための新たな枠組みについて論じたものです.
参考URL: Toward the future of psychiatric diagnosis: the seven pillars of RDoC
この新たな枠組みは研究領域基準(Research Domain Criteria, RDoC)と呼ばれるもので,アメリカ国立精神衛生研究所によって構想されているものですが,
この基準では従来の診断基準で軽視されていた生理学的指標,神経科学的指標を取り入れようとするものです.
例えばサイコパスでは恐怖心の欠如が主な特徴に挙げられますが,不安障害では過剰な恐怖心がその特徴として挙られます.
こういった二つの症状を別々のものとして捉えるのではなく,恐怖や不安に関連する扁桃体やドーパミンの機能異常として,連続的なものとして捉えることで,神経科学による研究成果をより柔軟に治療に役立てられるようになるのではないかということが述べられています.
疲労やうつ,痛みなども別々の症状として捉えられることが多いのですが,一連の何らかのシステムの不具合として捉えたほうがより適切な治療も可能になるのかなと思いました.
音楽とドーパミン
ホルモンが悲しい曲を心地よくさせる?
人は音楽が好きな生き物です.その音楽の中でも半分近くは悲しい曲だと思うのですが,なぜヒトは好んで悲しい曲を聴くのでしょうか?
この論文は人が悲しい曲を好む理由をホルモンによる作用から説明しようと試みたものです.
参考URL: Why is sad music pleasurable? A possible role for prolactin.
一般に人のカラダは恒常性を保とうとするために様々なホルモンによって調整されています.
例えば森でオオカミに襲われた時のことをかんがえると,おそらくカラダの中ではカラダを興奮させるドーパミンと快楽感情を惹起するエピネフリンが分泌され
カラダは戦闘態勢に入ると同時に,狼に噛まれた痛みは快楽ホルモンのエピネフリンによって緩和されるはずです.
しかしこの経験が単に想像上のものだったら,実際の痛みがないところに快楽物質が分泌されるため,快楽だけが残ることが考えられるのではないか,
またプロラクチンという女性ホルモンはストレスに際して人を穏やかにし悲しみを緩和させる機能があるそうですが,悲しい曲や悲しいドラマといった仮想的なストレスがある時にプロラクチンが分泌されることで,心地よさが誘発されるのではないかということが述べられています.
女性が好んでドロドロの内容のドラマを見るのはこの辺にあるのかなと妄想しました.
脳科学から考えるキャッチーな曲が受ける理由
地球上で生み出される楽曲の数というのは,おそらく年間に発表される学術論文の数よりもよほど多く,
そのなかでもヒット曲になるような曲は限られており,
しかもそういったものは往々にしてキャッチーな曲調によるものが多いと思うのですが
脳科学的に考えた時に,なぜキャッチーな曲のほうが人々の脳に好まれるのでしょうか.
この論文は,音楽を聞いている時の感情と脳活動の関係についていままでの研究を取りまとめて説明を行っているものになります.
参考URL: Basic, specific, mechanistic? Conceptualizing musical emotions in the brain.
この論文によると,なぜヒトが音楽を聞いて喜びを感じるのかについて様々な仮説的見解を提示しています.
一つの仮説としては心理学の立場から提唱されている音楽の喜びは予想的中と関連するというもので
音楽を聞いている時,私達の脳は無意識に,そろそろサビの部分にこんな風に入っていくだろうという予測を立てており,
これが的中することで,脳幹にある報酬系を構成する脳領域からドーパミンが放出され,スロットマシンが揃ったようなときのような予想的中による快楽が得られ,これが音楽を聞いている快感につながるのではないかというものです.
もう一つの仮説としては,音楽を聞いている時の喜びは他者への感情的共感によるもので,これは身に覚えがある様な歌詞を聞いていることで惹起され,脳の中でもイメージ生成に関連する前頭前野内側領域が関与するのではないかということが述べられています.
キャッチーな曲というのは,期待を裏切らない定番の曲調と,「あるある」的な歌詞の組み合わせでできており,
それゆえヒトの脳の報酬系やイメージ生成システムをより良く賦活し,最大公約数的に大多数のヒトに好まれるのかなあと思いました.
もののあわれ:美しく悲しい音は脳のどこに響くか?
音楽というのは人の心によく響きますが、こういった音楽というのは楽しいものに限りません。
もののあわれという言葉があるように、私達の心はある種の悲しい音楽にも共鳴し、そこに美しさを見出しますが、こういった感覚はどのような神経活動と関連しているのでしょうか。
この論文は、音の美的感受性と脳活動の関係について調べたものです。
参考URL: Discrete cortical regions associated with the musical beauty of major and minor chords.
一般にメジャーキーはポジティブな感情を誘発し、マイナーキーは悲しい感情を誘発しますが、この実験ではメジャーキー/マイナーキーと協和音/不協和音の組み合わせ、それぞれの組み合わせ(メジャーキー/協和音:楽しく美しい、マイナーキー/協和音:悲しく美しい音、メジャーキー/不協和音:楽しいが美しくない音、マイナーキー/不協和音:悲しいが美しくない音)がどのような脳活動を引き起こすかについてPETを使用して詳しく調べたものです。
結果を述べると同じく美しいと感じるにしてもメジャーキーとマイナーキーでは脳の反応として共通する領域と異なる領域があること、
具体的には美しいと感じたときにはキーの種類にかかわらず報酬系の中枢でありドーパミンの放出に関わる中脳背内側領域の活動が見られること、
また悲しく美しい和音では同じく報酬系の一部を構成する右の線条体、楽しく美しい和音では情報の一貫性をコードする左中側頭回の活動が見られたことが示されています。
同じ審美的判断でも楽しさと悲しさでは異なるものなのだなと思ったり、
またこれが絵画などの視覚モダリティではどのようなものになるのかなと思ったりしました。
私達が音楽を聞いて楽しいのはなぜなのか?
音楽というのは人間の歴史と同じくらい古く,おそらくあなたが生きてきた時間の多くは音楽に費やされれてきたと思うのですが,
なぜ私たちは時間やお金,労力をかけてまで音楽を聞くのでしょうか.また音楽を聞いているときには脳はどのような活動をしているのでしょうか.
この論文は,音楽を聞いている時の脳活動について詳しく調べたものです.
参考URL: The rewards of music listening: response and physiological connectivity of the mesolimbic system.
実験では被験者に数十秒の短いクラッシック音楽と,クラッシック音楽を改変して意味を持たせない構造にした音の連なりを聞かせている時の脳活動について調べています.
結果を述べると意味のある音楽を聞くことで,脳の中でも古層の部分にあたり,様々な報酬に反応する領域である側坐核と腹側被蓋野の活動が高まり,ついで情動に関係する島皮質や視床下部,前頭眼窩野の活動が高まることが示されています.
つまり音楽を聞くことで
側坐核・腹側被蓋野(古層の脳)
↓
島皮質・前頭眼窩野(大脳新皮質)
のような流れがあり,これはチョコレートや麻薬と同じようなドーパミンを介する知覚反応ということで,
うつ病の治療などに音楽を役立てられないかということが述べられています.
音楽というのは天然のドラッグなのかなと思いました.
音ゲーが楽しいのはなぜか?
私は生まれつきリズム感に何かしらの問題があるようで決して手を出さないのですが、ゲームセンターに入って賑わっているところに音ゲー(音楽ゲーム)というものがあります。
これはリズムやメロディに合わせて太鼓を叩いたりステップを踏んだりパネルを動かしたりで得点を競うようなものですが、なぜこのようなゲームに人は喜んでお金を払うのでしょうか。
この論文は音楽を聞くときに生じる2つの種類の喜びに関わる脳活動について調べたものです。
参考URL: Anatomically distinct dopamine release during anticipation and experience of peak emotion to music.
私達は音楽を聞くとき2つの喜びを体験します。
一つはサビの好きなメロディを聞いているときに生じる喜びと
もう一つはもうすぐサビが来そうだというときのワクワクした喜びなのですが
この論文は、この2つの種類の喜びが脳の中でどのような違いとして示されているかについて調べています。
実験ではPETおよび機能的MRIを用いて、被験者に音楽を聞かせ、上記二種の喜びを感じるタイミングでの脳活動を調べているのですが、
好きなメロディを聞いているときには、脳の中でも右側坐核の活動が高まり、
好きなメロディが来る直前というのは右尾状核の活動が高まることが示されています。
私達の喜びや欲望というのはドーパミンを介した報酬系とよばれる脳内メカニズムに基づいているのですが、
この報酬系には2つの種類があることが近年提唱されています。
一つはliking system (好きだ!システム)で、これはチョコレートやケーキを味わっているときに生じる快感そのものに関わるようなシステムで。
もう一つはwanting system(欲しい!システム)で、これはチョコレートやケーキを求めて欲して、個体を駆り立て動かすようなシステムになります。
この論文によると好きなメロディを聞いているときの脳活動はliking systemに該当し、好きなメロディを待ち構えているときの脳活動はwanting systemに該当するのではないかということが述べられています。
音ゲーというのはこの2種の報酬系が強く刺激されるために、みな喜んでお金を払って遊ぶのかなと思いました。
音楽の美的体験に関わる脳活動とは何か?
音楽というのは様々な感情を引き起こします。
それは喜びだったり悲しみ、怒り、懐かしさなど様々ですが、そういった感情とは別物の一つとして美的感情というものがあります。
はたしてこの美的感情というのは心理学的にはどのように位置づけられるのでしょうか。また美的感情にはどのような脳活動が伴っているのでしょうか。
この論文は被験者に様々な音楽を聞かせ、その時の音楽の感情的評価と脳活動の関係について調べたものです。
参考URL: Mapping Aesthetic Musical Emotions in the Brain
音楽の感情的評価としては緊張感、力強さ、喜び、感嘆、優しさ、平和、郷愁、悲しみ、混合的感情の9つとし
そのそれぞれをポジティブ-高覚醒(感嘆、喜び、力強さ)、ポジティブ-低覚醒(優しさ、平和、郷愁)、ネガティブ-高覚醒(緊張感)、ネガティブ-低覚醒(悲しみ)の組み合わせに配置し、それぞれに関連する脳活動について調べています。
またこの研究では美的感情を、ポジティブ-低覚醒の組み合わせとして定義しています。
結果を述べると、この4パターンそれぞれに対応する脳活動があったのですが、美的感情に当たるポジティブ-低覚醒(優しさ、平和、郷愁)では、精神的な興奮に関連するホルモンであるドーパミンの代謝に関わる線条体と、感情と理性の交差点に位置する前頭眼窩野の活動が高くなることが示されています。
美の定義は様々だとは思うのですが、真に感動するコンテンツは往々にして静かでありながら力強く、ポジティブ-低覚醒の組み合わせというのは的を得ているのかなと思いました。
「音楽によって引き起こされる感情の神経基盤に向けて」
音楽というのはある特定の音波が編集されたものだと思うのですが、不思議なことに人間のいろんな感情を掻き立てることができます。
しかしながらなぜ私達は音楽という特殊な音の連なりを聞くことでこうも簡単に感情が変わってしまうのでしょうか。また音楽を聞いて感動している時というのはいったい脳はどんなふうになっているのでしょうか。
この論文は音楽と脳の関係についてまとめたものです。
参考URL: Towards a neural basis of music-evoked emotions.
この論文によると音楽を聞くことで脳の奥深くに存在する感情調整領域の活動が大きく変化すること、
また音楽を聞いてこれらの領域からドーパミンが放出されることで、身体運動が引き起こされやすくなることが述べられています。
スタンドからの声援やブラスバンドの演奏というのは、脳機能のことを考えても、やはりそれなりに運動機能を高める効果があるのかなあと思いました。
その他ドーパミン
驚きと学習の脳科学
昔読んだ何かの学習指南書で「何かを記憶したければ驚くことが大事だ」ということが書いてありました。
ただ漫然と読んでみるのではなく
覚えたいことがあればいちいち「へ~っ」と驚いてみる、このことで学習が加速されるそうですが、これは脳科学的にはどのように考えられるのでしょうか。
この論文によると、脳の奥深くには脳内ホルモンを出すところがあり、
何かに驚く時には、ここからドーパミンが放出され
それが知性の座である前頭部に送られることで脳活動の変化が引き起こされるそうです。
子供、とりわけ幼児の学習が速いのも、ひょっとしたら「驚き力」が関係しているのかなと思いました。
なぜあの人の視線は心を震わせるのか
視線というのは中々パワフルで,特に日常アイコンタクトに慣れていない日本人ではすっと見つめられると,それだけで心が揺れることがありますが,これは脳科学的にはどのように説明できるのでしょうか.
この論文は,視線が脳にどのような影響を与えるかについて調べたものです.
参考URL: Reward value of attractiveness and gaze.
実験では被験者に
①魅力的な異性が視線をこちらに向けている顔写真
②魅力的な異性が視線をこちらに向けていない顔写真
の2条件で脳活動の違いを機能的MRIを使用して見ているのですが
結果を述べると
同じ顔写真でも視線がこちらを向いている条件のほうが,脳の中でもドーパミンを介して喜びや興奮に関連する腹側線条体の活動が高まっていることが示されています.
普段目に触れる様々な画像メディアはいろいろありますが,視線がこちらを向いているものに気を引かれるのは,この辺に理由があるのかなと思いました.
「極による探査:前頭前野の前部の基質がヒトの探査的な意思決定に関わる」
今の相手と結婚するか見送るか、
仕事変えるか留まるか
今の治療方針のままで行くか、思い切って変えてみるか
大きなことから小さなことまでヒトは日々いろんなジレンマの中から一つ一つ決定を下さなければなりません。
こういった上記のジレンマで共通する部分は、確実安全な今の状態に留まるか、あるいは新たな可能性を求めて未知の世界へ旅立つかということだと思うのですが、英語ではこういったジレンマを“exploration-exploitation” dilemmaというそうです。
うまい訳が見当たらなくて、訳文では“探査-掘り下げ”ジレンマとしてありますが、もっといい訳があるというかたは教えていただければありがたいです。
大分前に『チーズはどこへ消えた?』というビジネス書が売れましたが、これは今あるチーズの場所に留まることを固執して新たなチーズを探しに行かないネズミが、挙句の果てに手元のチーズを食べ尽くしてしまう話だったと思うのですが、この食べつくす方が「掘り下げ」のイメージで見てもらえればいいのかと思います。
この論文はこの“探査-掘り下げ”ジレンマにおいて脳のどこが活動するのかを調べたものですが、
結果を述べると
①“探査”を選ぶときには前頭極が働く傾向があり
②“掘り下げ”を選ぶときにはドーパミンを介した報酬系に関わる線状体と前頭前野の内尾側領域が働く傾向がある
ということになるそうです。
感受性の脳科学
世の中には豪胆な人から繊細な人までいろいろいると思うのですが、時に繊細極まりない人というのもいます。
人一倍感受性が強く、人一倍優しく、人一倍傷つきやすい、こういったタイプの人間は通常の社会では時に生きづらく大変な思いをすることも多いと思うのですが、こういった性格は脳科学的に見るとどのように捉えることができるのでしょうか。
感受性が非常に強いパーソナリティはhighly sensitive personality(超高感度人間・高度に感受性の高い人)と呼ばれるようですが、この論文はこの性格傾向と遺伝・環境の影響について調べたものです。
参考URL:
結論を述べると
①この性格傾向は神経伝達物質の一種であるドーパミンの調整と関係する遺伝子に影響を受ける
②単一の遺伝子ではなくドーパミンの調整に関わる複数の遺伝子の相互作用によってこの性格傾向が現れる
③遺伝の影響で説明できるのは15%、親の養育態度やストレスフルなライフイベントというような環境要因で説明できるのは2%である
ということが述べられています。
遺伝と環境で合わせて性格傾向の2割弱が説明できるというのはいまいち実感はわきませんが、これが別の病気(癌や脳卒中、糖尿病)ということを考えると決して低い数字ではないのかなあと思いました。
ドーパミンまとめ
私たち人間は、学び、伝え、音楽を愛する地球上まれに見る不思議な生き物ですが、
以上御紹介したように、人間の人間らしい営みにはドーパミンが関わっています。
このドーパミンもどれだけ分泌されるのか、また分泌されたものをどれだけ使えるのかというのも個人差があり、
それゆえ人間の営みも千差万別になるのですが、
与えられたものを与えられたものとして、生き切りたいものです。
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