正義感とはなにか?その測り方と性格傾向
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はじめに

「正義感」というのは、人間が持つ感情の一種で、社会のルールや公平さに反することに対して怒りや不快感を覚えるものである。この感情は悪いものとは言えないが、場合によっては暴力や非倫理的な行為につながることもある。では、この正義感とはいったいどのようなものなのだろうか。この記事では、心理学の観点から正義の概念や測定方法について説明する。

正義感の種類

正義感とは、自分と正義のあるべき姿との間にギャップがあるときに感じる感情である。しかし、正義感の感じ方は人によって異なる。その違いは、自分がどのような立場にいるかによって決まる。立場には4つの種類がある(Schmitt et al., 2010)。一つは被害者感受性という、自分が不正義に遭ったときに感じる正義感である。例えば、詐欺やハラスメントにあったときなどである。もう一つは観察者感受性という、他人が不正義を受けているのを見たときに感じる正義感である。例えば、ニュースで不公平な扱いをされている人を見たときなどである。さらに一つは受益者感受性という、自分だけが利益を得たときに感じる正義感である。例えば、身近な友人の中で自分だけがおもちゃを買ってもらえたときなどに感じるものである。最後の一つは加害者感受性という、自分が他人に不正義なことをしたときに感じる正義感である。例えば、家族に手を上げたり、取引先に無理強いをしたりしたときなどである。

正義感の感じ方は立場によって変わるが、正義感の強さは以下の4つの要素で測ることができる(Schmitt et al., 1995)。一つは不公正な経験の頻度である。正義感が強い人は、細かい不公正も見逃せないので、不公正な経験を多くすることになる。もう一つは不公正な出来事に対する情動反応の強さである。正義感が強い人は、不公正な出来事に心を大きく動かされることになる。少年漫画に出てくる正義感の強い少年のようにである。さらに一つは不公正な出来事に対する思考の持続性である。正義感が強い人は、不公正な出来事を忘れられずに、ずっと考え続けることになる。被害者であろうと、加害者であろうとである。最後の一つは正義回復へのモチベーションである。正義感が強い人は、不公正な出来事を正そうとして、実際に行動することになる。

正義感の評価方法

正義感の評価方法は先に記した概念的枠組みに沿ったものがいくつかあるが、ここでは比較的評価のし易いものを紹介する。これは、JSS-8(the Justice Sensitivity Short Scales–8 )と呼ばれるもので、正義感に関する4種の感受性を8つの質問で調べるものである(Groskurth et al., 2023)。各項目は6点満点(全くそうではないを1点、全くそのとおりであるを6点)。各感受性ごとに平均点を求める。

以下項目を記す。

・被害者感受性(Victim Sensitivity) 

他人が自分よりも不当に良い立場にあるとき、怒りを感じる。
他人には楽に手に入ることが、自分は一生懸命努力しなければならないとき、気になる。

・観察者感受性(Observer Sensitivity)

誰かが他人よりも不当に悪い立場にあると知ったとき、動揺する。
他人には楽に手に入ることが、誰かは一生懸命努力しなければならないとき、気になる。

・受益者感受性(Beneficiary Sensitivity)

自分が他人よりも不当に良い立場にあるとき、罪悪感を感じる。
自分には楽に手に入ることが、他人は一生懸命努力しなければならないとき、気になる。

・加害者感受性(Perpetrator Sensitivity)

自分が他人の不利を利用して得をするとき、罪悪感を感じる。
自分が何らかの手練手管を使って目的を達成する一方で、他人はそれに苦労しているとき、気になる。

 

ちなみにドイツ人を対象にした調査では、各感受性の平均点と標準偏差は以下の通り。

被害者感受性:3.54±1.34 点

観察者感受性:4.01±1.15点

受益者感受性 :2.83±1.35点 

加害者感受性:平均点:4.23±1.40 点

これらのスコアは地域によっても大分ばらつきがあるので、一概にいえるものではない。しかし、ざっと見た感じでは各感受性の平均点が5点以上であれば、上位15-25%程度に位置するということになるのだろうか。ちなみに私は被害者感受性が2点、観察者感受性が4.5点、受益者感受性が3点、加害者感受性が5点であった。全体的には並の正義感であることがわかったが、加害者感受性が高いことは商売をするに当たってあんまりメリットにならないような気もする。

また上記の正義感に関する感受性のうち、被害者感受性の高さは、社会的に好ましくない性格特性(マキャベリズム、パラノイア、復讐、猜疑心、嫉妬、不信) と正の相関を示し、それ以外の感受性(観察者、受益者、加害者感受性)は好ましい性格特性(共感性、社会的責任感、役割分担)と正の相関を示すとの報告もある。正義感の感受性は色々種類があるが、同じようには扱えないのかもしれない。

おわりに

では、ここまでの内容をまとめよう。

以下に上記の内容をまとめる。

・正義感感受性には、被害者感受性、観察者感受性、受益者感受性、加害者感受性の4つの種類がある。

・正義感の強さは、不公正経験の頻度、不公正に対する情動反応の強さ、不公正な出来事に対する思考の持続性、正義回復のモチベーションで図ることができる。

・被害者感受性の強さはネガティブな性格傾向と、それ以外の感受性はポジティブな性格傾向と関連する。

このように正義感というのはその立場や感受性から様々な見方ができる。自分や他人の正義感については、鵜呑みにすることなく、十分咀嚼して吟味する必要があるのかもしれない。

 

【参考文献】

Groskurth, K., Beierlein, C., Nießen, D., Baumert, A., Rammstedt, B., & Lechner, C. M. (2023). An English-Language adaptation and validation of the Justice Sensitivity Short Scales-8 (JSS-8). PloS one, 18(11), e0293748. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0293748

Schmitt, M. J., Neumann, R., & Montada, L. (1995). Dispositional sensitivity to befallen injustice. Social Justice Research, 8, 385-407. https://doi.org/10.1007/BF02334713

Schmitt, M., Baumert, A., Gollwitzer, M., & Maes, J. (2010). The Justice Sensitivity Inventory: Factorial validity, location in the personality facet space, demographic pattern, and normative data. social Justice research, 23, 211-238.https://doi.org/10.1007/s11211-010-0115-2

 

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