【重要】運動学習の脳科学 神経メカニズム研究論文14本【後編】
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はじめに

運動学習というのは生まれた直後から体が衰え動けなくなるまで続いていきます。

立つこと、歩くこと、走ること、ボールを投げたり、杖をついたり、おぼつかない足で家の中を歩いたり、

私達の脳は絶えず自らの身体とその周りの環境との関係を最適化すべく運動を学習していきます。

前回は運動学習に関わる脳メカニズムについて基本的なメカニズムについて取り上げましたが、

こういった運動学習に重要な領域としては小脳や帯状皮質、皮質下領域などがあり、

今回の記事ではこれらの脳領域を中心に重要な論文の解説を行います。

運動学習と小脳

「運動系列学習を行なうときの小脳の経験に依拠した変化」

明日で今勤めている職場も最後になるのですが、机の上を整理していると、勤め始めた頃つけていた反省帳が出てきました。

人間関係のことや、仕事の手技のことで、これがだめだった、これはうまくいったなどと書き綴ったものです。

今では、特に意識していない、当たり前のようなことが数多く記されていて、意識していないってことは、内面化されたってことなのかなあなどと思いながら読み返してみました。

この論文は、やはり小脳の運動学習についてのもので、運動系列学習が進むに連れ、活動の中心は皮質-小脳システムから皮質-線状体システムに移ること、その前段階として小脳皮質から歯状核に移行することが述べられています。

Experience-dependent changes in cerebellar contributions to motor sequence learning.

「ヒトの小脳の活動は新規に獲得された道具の内部モデルを反映する」

朝起きてから夜寝るまでヒトの行うタスクは膨大です。

スマートフォンをいじる、傘を開く、キーボードを叩く、じゃがいもの皮をむく・・etc

ヒトはどうやってこれらの運動を行っているのでしょうか。

運動制御理論によると、これらの運動の仕方というのは小脳に“内部モデル”という形で蓄えられているそうです。

内部モデルというのは「こうすればこうなる」とシミュレーションできるようなそんなモデルのようです。目の前にスマートフォンやキーボードがなくても、頭のなかで「こうすればこうなる」とシミュレーションできる、そんなモデルが内部モデルと言われるもののようです。

こういったものがあるのでアスリートは座ったままでも頭のなかで内部モデルを駆動してイメージトレーニングというものが出来るかもしれません。

この論文は小脳に道具使用の内部モデルが作られることを実証したものです。

従来小脳は運動学習中には盛んに活動するけれども、運動学習が成立した後は活動が低下するため、大事なのは運動学習中だけではないかということが言われていたようです。

この論文では新規の道具の操作という運動学習が成立した後に小脳外側に内部モデルに対応する活動が見られることが示されています。

Human cerebellar activity reflecting an acquired internal model of a new tool.

つまり小脳は運動学習成立後も運動の内部モデルを形成し、それを駆動する点で運動制御に重要に関わっているのではないかということが述べられています。

「小脳の内部モデル」

いまだにしっかりと理解できないのですが、よくいわれる小脳の逆モデルというのは「ある目的とする運動を行うときにどの様な神経活動が必要か」というモデルで、順モデルというのは「この神経活動によってどのような運動が引き起こされるか」というようなものらしいです。

売れっ子のホステスさんがこんな仕草をしたら、お客さんこんな風に反応するだろうな、というモデルが順モデルで、このお客さんをこんな風に反応させるためにこんな風な仕種をしてみようというのが、逆モデルになるんでしょうか。

駆け引きとか得意じゃないんで、この例えでいけば私の小脳は大分プアなのかもしれません。

この論文はこの小脳の内部モデルについてのものです。

Internal models in the cerebellum.

並列に並んだ順モデルと逆モデルのユニットが互いの計算結果を組み込みながら情報を処理することで効率的な運動調整と運動学習が出来るのではないかということが述べられいます。

「腕の動きの内部モデルと腕の状態の読み取り」

内部モデルという言葉があります。

これはいわば運動の雛形のようなもので、実際に運動しなくてもこうすればこうなるだろうなとわかっているような、そんな情報のことのようです。

例えばこのテニスラケットを振ればこういうふうに感じるだろうなだとか

あるいはこれくらいの重さの患者さんを車いすに移すにはこれくらいの力がかかりそうだなとか

実際に運動する前からなんとなくわかっているような、そんな感じ、そんな運動感覚を内部モデルと言うそうです。

とはいえこの内部モデルというのはどうやって作られるのでしょうか。

これは運動の当たり外れで作られるそうです。

まず何か運動するにあたって、こんなふうに感じるだろうなという原-内部モデルが小脳から頭頂葉に送られるようです。

頭頂葉には別ルートで実際の運動感覚が送られてくるのですが、これと予想的感覚(原-内部モデル)が比較照合され、どれだけ予想と違っていたかが比べられる。

その差異情報がもう一回小脳に送られて、小脳は更にブラッシュアップした内部モデルを作り上げて・・・という流れがあるようです。

この論文は、上記の流れの予想的感覚というのは何を軸にしたものなのかということを調べたものです。

Internal models of limb dynamics and the encoding of limb state.

感覚と言っても色々です。皮膚が伸長される感覚や、肌が空気と当たる感覚もあるかもしれないし、靭帯が伸長される感覚もあるかもしれない。

この論文ではもっとも重要な情報は筋紡錘の活動ではないかという仮説ものとシミュレーションと実際の運動を比較し、この仮説が正しい可能性があるということを述べています。

つまり運動学習には内部モデルの形成が大事で、その内部モデルの形成には筋紡錘の感受性が大事、そしてこの筋紡錘の感受性が低下することで内部モデルの形成にも支障が出ることがシミュレーションから示されています。

「リーチ動作制御における運動学的内部モデルと力学的内部モデルは独立して学習される」

年をとると怪我をしやすくなるのはなぜでしょうか。

別におじいちゃんおばあちゃんに限ったことではありません。

久しぶりに体育大会でバレーやバスケを頑張ったら捻挫した、靭帯切ったという中年は多いと思いますし、中年だけでなく、この間まで現役でやっていたような20代、30代にも多いような気がします。

リハビリの仕事をしていて彼らに聞いてみると「気持ちは動くつもりなんだけど身体がついて行かなくて・・」といった言葉が返ってきます。

それにしてもこの気持と身体の乖離というのはいったいどういったものなのでしょうか。

またそもそもこの“気持”や“身体”というのは、神経学的に考えた場合どういった要素を指しているのでしょうか。

この論文は引き続き小脳内部モデルに関するものです。

Independent learning of internal models for kinematic and dynamic control of reaching.

この論文によると小脳内部モデルというのは二つに分けて考えることが出来るのではないかということが述べられています。

一つは純粋に運動学的なもの、これは端的にいうと手を上げたり、ボールをけったりというどの方向に手足をどのように動かすかというそういった情報が蓄えられるような内部モデルが一つ、

もう一つは上腕二頭筋をこれくらい収縮させて下腿三頭筋はこれくらい弛緩させるという純粋に力学的情報が蓄えられるような内部モデルが一つ、

内部モデルというのはこれら二つに分けて考えられるのではないかということが述べられています。

これが具体的にどんな感じかというと、たとえばバンザイという動作であっても、普通にバンザイするときと手に重錘を巻いてバンザイするときでは筋活動パターンは異なったものになる。でもバンザイという動作パターンそのものは保たれている、そういったことはあるのではないかと思います。

どの瞬間に手足はどのへんにあるべきかという情報が運動学的内部モデル

どの瞬間に手足をどれくらいの力で動かさなければならないかという情報が力学的内部モデル

こういった二つの異なる内部モデルが同時に並行して働いているのではないかということがこの論文の中で述べられています。

久しぶりにバレーをやったら靭帯切ったというような状況をこれにそって考えてみましょう。

頭のなかでは高校生の時のような運動学的モデルと力学的内部モデルがある。

久しぶりのコートでは高校生の時の運動学的モデル(パフォーマンス)を達成しようとする。

そしてそれに相応する力学的内部モデルを駆動したつもりが、筋力が低下していたり、関節が固くなったりしていて力学的内部モデルに沿った筋出力が困難になり、運動が破綻、転んだりねじれたりして捻挫する、骨折する、そんな流れがあるのではないかと考えたりしました。

「感覚-運動調整におけるプルキンエ細胞の様々な役割:予想、指導、命令」

運動を行うには内部モデルというのが大事なそうです。

この内部モデルというのは運動のひな形のようなもので、小脳にあるとも言われているのですが、これは順モデルと逆モデルの二つの存在が仮定されているそうです。

順モデルというのは、ある運動を行うとこういう感覚が得られるだろうという予想的感覚情報、バーチャルな感覚情報で、例えば腕をこう動かしたらこういうふうに感じるだろうなというような、動かさなくてもわかりうるようなバーチャルな感覚情報のようです。

逆モデルというのは小脳に蓄えられた運動指示の情報で、これは投げる、跳ぶ、掴むなど様々な運動パターンを指示するような、そんな情報のようです。

この逆モデルについては、これは順モデルが一度頭頂葉に送られてその後の経過で逆算されて組み上げられるものだという立場と、それとは別に独立して存在し、直接運動野に指示をだすものだという立場の二つの立場があるそうです。

ここ最近ずっと取り上げてきた最適フィードバック制御理論では前者の「まず順モデルありき」を想定したものである、

→→→基底核←←←←←
↑     ↓     ↑
↑   運動野:指令→・→身体状態変化・外部環境変化
↑    ↑      ↓           ↓
↑    ↑→→→   ↓           ↓
↑    ↑   ↓   ↓           ↓
頭頂葉:状態評価←←小脳:順モデル        ↓
(こうなった+こうだろう)             ↓
↑                   ↓
←(こうなった情報)←感覚系←←←←

という話もしましたが、この論文はやはり独立した逆モデルというのも状況に応じてありえるのではないかということを示したものです。

The multiple roles of Purkinje cells in sensori-motor calibration: to predict, teach and command.

これは小脳と運動の関わりを考えた時に

プルキンエ細胞

小脳深部核

運動ニューロン

運動

という流れが考えられるのですが

学習の初期は

プルキンエ細胞
↓(逆モデル)
小脳深部核
↓(逆モデル)
運動ニューロン

運動

であるのが、学習が成立時には

プルキンエ細胞
↓(順モデル)
小脳深部核
↓(逆モデル)
運動ニューロン

運動

のようになっているのではないかということが述べられています。

帯状皮質と運動学習

なぜ私たちの脳は状況に応じて適切に行動できるのか

当たり前すぎることは時に意識に上ることがありませんが

私たちが普段の生活の中で無茶な行動や無理な行動を取らないのはなぜなのでしょうか。

仕事の締め切りが近づいてきても、ちっとも慌てず旅行に出てしまうヒトはあまりいないでしょうし(何らかの方法で締め切りに対処しようとするでしょう)

関わったらめんどくさそうなヒトに、積極的にいちゃもんを付ける人もあまりいない(よほどの事情がなければかかわらない方を選択する)

ヒグマが目の前にいたら、これと戦おうとするヒトもあまりいません(時にはいるようですが)

以上は極端な例にしても、私たちは瞬間瞬間でいろんな状況に置かれており、そのおかれた状況で最もふさわしい行動を無意識的にとって生活しています。

こういったことがあるから世の中は割とスムーズに流れていくと思うのですが、果たしてこういったことは脳科学的にどのように説明できるのでしょうか。

この論文は前帯状皮質と呼ばれる脳の領域について詳しく述べたものです。

Contributions of anterior cingulate cortex to behavior

この前帯状皮質というのは貼付の図のように、脳の内側、右脳と左脳がくっつくその内側面中央にあるのですが

場所的には知性と情動をつなぐところにあるようです。

これがどんなことをするかというとあまりに多岐に富んでいるのですが

一言で言うと、文脈に沿った行動を制御するということで

知覚や情動、知性というものをうまくつないで、その状況状況で最も適切な行動ができるよう個体を管理しているようです。

なんだか脳の中の脳みたいだなあと思いました。

「前帯状皮質の行動への寄与」

この論文は帯状皮質の前の方、前帯状皮質についての総論になります。

Contributions of anterior cingulate cortex to behaviour.

論文を一通り読んでは見たのですが、なんだか何をしているのかはっきりしません。

総じて言えば気づきと反応に関与しているようですが、これもなんだかはっきりしません。

なんでこんなことになるかというと、この前帯状皮質というのはいろんな領域と結びついていろいろなはたらきを示すからだそうです。

例を上げれば

前帯状皮質+背外側前頭前野(ワーキングメモリ領域)=意図的な動作

前帯状皮質+背外側前頭前野(ワーキングメモリ領域)+頭頂葉(高次感覚)=動作への注意

前帯状皮質+海馬=記憶

といったふうにペアになった相手で発現してくる内容が違う。

無理矢理な例えで言うと人が仕事をするのを考えても立ち位置によってキャラが変わってくるというのに似ているような気がします。

イケイケの課長の下についた時は慎重に事を運ぶキャラとして働くけど、優柔不断な上司の下についた時には、上司の尻をも叩く強いキャラになるかもしれない。

喫煙所にいって後輩がいれば、偉そうな先輩として振る舞うかもしれないけれど、昔世話になった先輩とふたりきりになれば従順な後輩としての役割をはたすかもしれない。

家に帰って子供の前だと顔を崩すデレデレパパになるかもしれないし、街のスポーツ少年団に顔を出せば鬼監督して振る舞うかもしれない。

果たしてどれが本当の彼の性格というと、どれということもなく

そのヒトのキャラというのはおそらく周りとの関係性で現れ出るもので、何かしら固有のキャラというものがあるわけではない。

脳の領域の一つであるこの前帯状皮質も他の領域との関係性で様々な機能が発現するのかなと思いました。

皮質下領域と運動学習

なぜあの人は何度同じことをいわれてもできないのか?

世の中には何度同じことをいわれてもできない人というのがいます.

付けた電気は消してよといわれても,ついつい付けっぱなしにしてしまう旦那だとか,

何度も同じところで同じように間違ってしまう人だとかいろいろおり,

かくいう私こそがその最右翼だったりするのですが,こういった人たちの脳というのは何か普通のところと異なっているのでしょうか.

この論文はパーキンソン病患者の運動学習について調べたものです.

一般に運動学習では二つの段階があるといわれています.

スキーやスノーボード,あるいはテニスなどを思い出してもらえばいいかと思うのですが,

大抵の運動は最初は試行錯誤から入ります.体を右に傾けたり左に傾けたりしながら,いろいろと試す中で,どうにかコツのようなものを掴みます.これが第一段階.

もう一つはボンヤリわかりかけたコツをブラッシュアップする段階です.

この段階になれば,あれこれ考えなくても,このボールが飛んできたらラケットをこう当てる,あるいはこんな斜面が見えてきたら体をこう傾けるというように,視覚情報とカラダの運動をダイレクトに繋いでいきます.これが第二段階です.

この研究ではある課題を用いて,試行錯誤段階とブラッシュアップ段階に分けて,パーキンソン病患者の運動学習がどのような特徴があるかについて調べているのですが,

Advanced Parkinson’s disease effect on goal-directed and habitual processes involved in visuomotor associative learning

結果を述べると

・パーキンソン病患者は試行錯誤段階とブラッシュアップ段階の両方で学習機能の低下が見られる

・しかしながらブラッシュアップ段階において学習機能の低下が顕著であり,これはパーキンソン病の重症度とも相関していた.

・運動学習においては,試行錯誤段階での学習に関わる尾状核(caudate nuculeus)と,ブラッシュアップ段階での学習に関わる被殻(putamen)が重要であるが,パーキンソン病患者においては被殻の障害が顕著である

・パーキンソン病患者において運動学習が定着しづらいことと関係している可能性がある

ということが述べられています.

物心ついてから不器用で,何かができるようになるために数倍時間がかかったりするのですが,こういうのは私の被殻の機能的な特性によるものなのかなと思いました.

「パーキンソン患者の技能習得」

昔、居酒屋さんで働いていた頃、いつもすごいなと思っていたのは親方の仕事が早くて正確なことでした。

時間に追われ、急いで仕事をすると、どうしても仕事が雑になるのですが、親方はどんなに急いでも、ちっとも仕事が雑にならない。親方からは「佐藤君、仕事は早くて、きれいにだ」といつも言われていました。

この論文はパーキンソン病患者の運動学習能力のついて調べたものです。

Motor skill learning in Parkinson’s disease.

鏡像模写課題を使って、パーキンソン病患者の運動学習能力そのものは低下しないことを示しています。

この実験では比較的簡単な課題を行わせ、運動学習能力は低下しないと結論づけていますが、臨床場面で観察する限り、やはりパーキンソン病の進行と何らかの運動学習能力の低下の間には何か関係があるように思うのですが、どうなんでしょう。

「運動技能学習に対する皮質-線状体システムと皮質-小脳システムの異なる寄与」

人間、死ぬまで勉強などという物騒な言葉もありますが、あながち嘘でもないとも思います。

生きるということは、周りの世界とうまくやっていくことだと思います。周りの世界が変わり続けている以上、それとうまくやるためには自分も変わり続けるほかありません。

変わることを学習と定義すれば、確かに人生、死ぬまで勉強、逆に言えば、学習できなくなった時が、個体にしろ、会社にしろ、国家にしろ、死ぬ時なのかなと思ったりします。

この論文は運動学習システムは皮質-線状体システムと皮質-小脳システムの二本立てになっていて、それぞれが運動学習の異なる段階で、異なる働きをすることについて述べられています。

Distinct contribution of the cortico-striatal and cortico-cerebellar systems to motor skill learning.

「運動系列課題の抽象的な表象と効果器に特徴的な表象の学習に関わる皮質と皮質下のネットワークについての機能的MRIにる研究」

山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、やらせてみせ…」ではないのですが、何を覚えるにしても、やっぱり最初は見るところから始めるのが妥当だと思います。

何もしらないところで、暗闇の中で、手探りで、上手にやりなさいというほどの無理難題はないんじゃないかとおもいます。

この論文は、順序だった視覚運動課題を覚える時は、最初は頭頂葉が活発に活動し、学習が進むに連れて運動前野の活動が活発になること、被殻も同様に最初は前部が、学習が進むと後部が活発に活動し、運動学習の諸段階を通じて、さまざまな情報処理ループに関わることが示されています。

fMRI investigation of cortical and subcortical networks in the learning of abstract and effector-specific representations of motor sequences.

運動が上手になるということはどういうことか?

ネズミやネコと違って人間というのは手がかかる生き物です.

上手に歩いたり走ったりするためには数年単位で時間がかかりますし,自転車に乗ったり,自動車に乗ったり,キーボードを打ったりと様々なことを一つ一つ覚えていかなければなりません.

しかしながらこういった運動は一度覚えてしまえば,そんなに大変ではありません.意識することなしに足はペダルを踏み,手はハンドルを回し,指はパチパチとキーボードを叩けるようになるのですが,こういった意識的な運動から無意識的な運動に移行する時に,脳はその振る舞いをどのように変えているのでしょうか.

この論文は,運動学習における大脳皮質と線状体の関係についての総説論文になります.

Cortical and basal ganglia contributions to habit learning and automaticity

この論文によると従来の考え方では,運動学習をするにあたって,覚えはじめの時期では大脳皮質が中心に活動し,これが慣れてきて熟練してくると,線状体(striatum)などの皮質下領域(subcortical region)が中心になってくると考えられてきたのですが,

近年の研究によるとそうでもないようで,

覚えはじめの時期では線状体の中でも尾状核(caudate)と呼ばれる部分が学習の成立に非常に重要であり,熟練してくる時期では被殻(puteman)と呼ばれる部分が重要になること,

また熟練してくると大脳皮質の活動が必ずしも低下するわけではなく,注意機能(attentional function)に関連した頭頂葉(parietal area)や前頭前野(prefrontal area)の活動は低下するものの,運動そのものに関連する運動野(motor area)や運動前野(premotor area)の活動は増加することが述べられています.

つまり運動の熟練に伴って,従来言われてきたように

大脳皮質→皮質下

というような単純な図式ではなく

(大脳皮質⇆皮質下システムA)→(大脳皮質⇆皮質下システムB)

というようにシステムレベルの変化が起こるのかなあと思いました.

なぜ私たちはスムーズに運動できるのか?

私達は普段何も考えずにボールをとったりキーボードを打ったりしますが,これはどういうわけでしょうか.

コーヒーカップを取るという動作一つとってもこれに含まれる情報は膨大です.

これはコーヒーカップまでの距離や重さ,高さ,自分のカラダの位置や筋肉,関節の具合,口の位置,こういった莫大な情報をうまく付きあわせて「コーヒーカップを取る」ということが可能になると思うのですが,これはどういった仕組み出回っているのでしょうか.

こういったことはごくごく簡単な仕組みで言えばフィードフォワード制御とフィードバック制御が大事になってくると言われています.

フィードフォワード制御というのは「これからコーヒーカップを取るにあたってこんな順序でこれくらいの力を入れて体を動かすぞ」という前取り先段階での運動制御であり

フィードバック制御というのは「コーヒーカップが思いの外重いのでこれくらいの力でもってこよう」というあと付け追いかけの運動制御です.

この論文では脳の中でも深い部分にある視床下核と呼ばれる部分がこのフィードバック制御とフィードフォワード制御の交差点にあたることが示されており

それゆえ運動学習の要になるのではないかということが述べられています.

Modulation of beta oscillations in the subthalamic area during motor imagery in Parkinson’s disease.

実験では視床下核電気刺激術前のパーキンソン病の患者を対象にしていて,パーキンソン病患者というのは臨床上運動学習が苦手だなと思うことも多いのですが,これは視床下核がパーキンソン病患者でうまく働いていないためなのかなと思いました.

「大脳基底核と小脳の運動調整と学習における相補的な役割」

今回の論文を読んで、今まで、漠然と理解していた教師あり学習、教師なし学習をあらためて調べてみたのですが、やはりいまいちピンと来ません。

原因と結果のパターンを大量に教え込んで、その因果関係を悟らせるのが、教師あり学習で、とりあえずいろんな事象にさらして、結果の解釈は本人にお任せするというのが、教師なし学習なのでしょうか。

前者は何となく分かるのですが、後者はいまいちです。ひょっとしてひらめきのようなもの、複雑系で言う「創発」というのが教師なし学習になるのでしょうか。

この論文は大脳基底核や小脳が運動機能だけでなく認知機能にも関わること、その学習形式は前者が強化学習、後者が教師あり学習であることが述べられています。

Complementary roles of basal ganglia and cerebellum in learning and motor control.

その他運動学習

頭と体の間にあるもの

普段リハビリの仕事をしていると、頭と身体というのは綺麗に分けられるものではないなあと思うことがあります。

これは脳卒中で頭も身体もうまく動かないような患者さんでも

歩くのが上手になってくると自然に頭の方もしゃっきりしてきたり

あるいは頭のほうがしゃっきりしてくると歩くのも自然に安心して見られるようになってくる、

こんなことからも頭と身体というのは密接にリンクしているような気がするのですが、これは脳科学的に考えるとどういうことになるのでしょうか。

この論文は今流行のロボットスーツによる運動学習効果を脳科学的に検討したものです。

Directed neural connectivity changes in robot-assisted gait training: a partial Granger causality analysis.

結論を述べるとロボットスーツを着ているときは脳の中でも知性を示す前頭部と運動・感覚を処理する頭頂部のつながりが強くなることが示されています。

それというのも慣れないロボットスーツを操って歩くということはそれなりに自分のカラダを意識して上手に動かすという認知的な負荷も高まるためではないかということが述べられており、

ロボットスーツでなくてもピアノの演奏や舞踏、体操競技など

高いパフォーマンスが要求されるような課題を行っているときは自ずと「頭」の活動も高まるのかなと思ったり

あるいは脳卒中で歩くのがやっとこな患者さんにとっては歩くこと自体がすでに認知トレーニング的な要素を含んでいるのかななどと思いました。

「言葉はどのようにして記憶に蓄えられるのか?声と音素を超えて」

ダンスの先生に言わせると子供というのは言葉を覚えるのも早いけど、踊りを覚えるのも早いとのことです。

あれこれ言葉で指図しなくても、動きを動きとしてまるごと理解してモノにしていくそうなのですが、これは言葉の学習と絡めてどういう解釈ができるでしょうか。

この論文は言葉がどのように記憶されているかについて論じたものです。

How are words stored in memory? Beyond phones and phonemes.

従来の言語学では言葉というのは音素記号の並びで示されるような仕方で頭のなかに記憶されるものとされてきたそうですが、実はそうではないのではないかということが言われています。

読み違えてたら申し訳ないのですが、これはおそらく動作を学習するような仕方で言葉というのが記憶されているのではないかということです。

例えば、赤ちゃんはその発達過程でいろんな動作を獲得します。

なにかにリーチしたり、ものを摘んだり、放り投げたり、ひっくり返したり、スプーンを使ったりいろいろですが、これは武道で型を覚えるように最初になにか正しいやりかたを教わるわけではない。

リーチするにしても、ものを摘んだりするにしてもその軌道はいろいろですし、大きなゆらぎの中で一つのパターンとして学習される。

その学習にあたっては、その時の欲動や環境、身体感覚などいろんな情報が付随してある一つの動作が学習される。

言葉の覚えるにしても音素記号を覚えるのではなく、母親の声のトーンや話されている状況、気持ち、いろんな情報が運動学習さながら付随して言葉というのが学習されていくのではないかというのがこの論文の趣旨ではないかと思います。

外国人力士の日本語がなまりなくスムーズなのはこのへんにあるのかなと思いました。

歌の上達と脳科学

寝る子は育つといいますが

もうすぐ4歳になる我が子を見てても,一日一日成長し,昨日できなかったことが今朝にはできるという様子もありますが

果たして寝ることと発達の間には何かしら関係があるのでしょうか.

この論文は,キンカチョウの鳴き声学習と脳活動の関係について詳しく調べたものです.

キンカチョウというのは様々なパターンの鳴き声を出すそうですが,この鳴き声を覚えるためには若いころにしっかりと学習する必要があるそうで

こういった学習パターンは人の子どもの言葉の獲得や

あるいは人の運動学習と似たような仕組みでなされるそうです.

この論文ではキンカチョウの運動前野に当たるような場所の脳活動と鳴き声のうまさ(バラつきの少なさ≒安定感)を調べているのですが

Daily and developmental modulation of “premotor” activity in the birdsong system.

一晩明けた朝にグッと上手になっていて

昼くらいまで上手になり

夜になるとなぜか下手になって

この下手な時期を経ることで次の朝にはまた上手になっている

またそれと相関するような脳活動があることが示されています.

一晩あけてうまくなるのは何となく分かるのですが,夜になると下手になるというのは初めて聞くような話で

この論文によると,脳は夜の間に昼に覚えたことを再構成しているのではないか

夜間,一時的に歌が下手になったり,また次の朝上手になったりするのはこの脳の配線の再構成ということで説明できるのではないかということが述べられています.

部屋をしっかり片つけようとすると,一時的に部屋が散らかってしまうことがありますが,この散らかる状態を経ずして部屋は綺麗にはならず

鳥が夜,歌が下手になるというのは,この片つけの途中状態のようなものなのかなあと妄想しました.

「ヒトにおける暗黙的な眼球運動系列学習について:オフラインでの情報処理の時間変化」

前の日に読んだ文献を次の日の朝、紹介することにしているのですが、内容が難しくて、ちっとも分からないことがあります。

布団に入る直前までギラギラ読んでいてもちっともわからない。でも、朝、目が覚めてもう一度目を通すと、スラスラ内容が理解できることがあります。

これが噂に聞く睡眠学習かなと思いながら、あまり難しい文献の時には、諦めて寝るようにしているのです。朝目が覚めてもやっぱり分かっていないなんて時には大分慌ててしまいますが。

この論文は、運動学習が、練習を終えた後、なにもしないときにでも無意識化に進行していることを、眼球運動で調べたものです。やはり学ぶためには休むことは大いに大事なのかなと思ったりします。

Implicit oculomotor sequence learning in humans: Time course of offline processing.

あなたの確信感はニューロフィードバックで変わる?

ヒトには見る,聞く,味わうだけでなく,様々な高次能力がありますが,その中の一つに「確信する」というものがあります.

今見たものはUFOだったに違いないと「確信」したり

「もしもし,オレオレ」という声を息子の声だと「確信」したり

この患者は,軽微な脳卒中を患っていると「確信」したり,

など様々ですが,単純な情報の知覚とはまた少し違う次元の高次の感覚として「確信」というものがありますが,これは本当に単純知覚とは異なるものなのでしょうか,また異なっているとしたら何かしらの方法で変えうることができるものなのでしょうか.

この論文は,新たに開発された画期的なニューロフィードバックの手法により,「確信」感そのものを変えうることを示したものになります.

Multivoxel neurofeedback selectively modulates confidence without changing perceptual performance.

この新たなニューロフィードバック手法は,decoded neurofeedback (DecNef) と呼ばれるものです.

これがどういうものかというと,ある課題を行いながら,確信感があって回答した時と,確信感がなく回答した時の両方の状態の脳活動を機能的MRIでスキャンし,

脳がどういった状態の時,確信感が強く,どういった状態の時,確信感が弱いか,そのパターンを解析します.

その後,被験者に同様の課題をさせるのですが,

脳活動をスキャンしながら,被験者が確信感が強い時に該当するような脳活動を惹起できた時に,即座にフィードバックを提示する(フィードバック提示として画面上に示される円の大きさで,該当度合いを示し,その円の大きさに応じて金銭報酬を与える)というものです.

このフィードバックの結果,自分が下した判定への「確信」感が有意に高まることが実験の結果から示されています.

このフィードバック法の大きな特徴としては単独の脳領域の活動だけをフィードバックするのではなく

確信感に関係する複数の脳領域の活動とその関係性をフィードバックすることで

この方法を行うことで従来5~10日間かかっていたフィードバックの効果を極めて短期間の実施で与えることができたことが報告されています.

この手法は運動学習やPTSDへの応用研究も進んでいるようで興味深いと思いました.

まとめ

以上に取り上げたように運動学習に重要な概念として内部モデルがあり、これには小脳や帯状皮質、様々な皮質下領域が関与しています。

それゆえこれらの領域が障害されるパーキンソン病や小脳疾患では運動学習も難しくなり、

それゆえ病態に応じた介入方法が必要になってくるかと思います。

この内部モデルについては稿を改め詳しく説明したいと思います。

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