同性愛
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同性愛者の生物学とパーソナリティ

人間のことに興味がある。人間のあり方は、やることなすこと矛盾に満ちていて、ツッコミどころ満載だからだ。幸い、世の中には進化心理学という理論もあって、この矛盾をあれこれ説明してくれる。いわく人間がゴシップが好きなのはその方が生存確率が高くなるからだ、男が酒タバコ薬物をアピールするのは、女性に遺伝的頑強さをアピールするためだ、などなどである。

こういった進化心理学の基盤にあるのは、生き物はできるだけ子孫を多く残せるように進化してきた、という考え方である。進化心理学は人間の所業を説明するに、たしかに切れ味はいい。しかし進化心理学は同性愛と馴染みが悪い。というのも、もし生物ができるだけ子孫を多くするためだけに進化してきたのなら、同性愛者は歴史の途上でいなくなってしまうはずだからだ。しかしながら同性愛というのは有史以来普遍的に存在しており、人口のおよそ5%が同性愛者という報告もある(※1)

またもう一つの興味は同性愛者のパーソナリティについてである。何かを十把一絡げにするのはあまりにいただけないなとは思いつつ、それでも自分が見聞きする範囲では、なんとなく性格傾向の偏りもあるような気もする。

そういったわけで今回の記事では同性愛者の生物学および心理学的知見についてまとめてみたい。

同性愛者の生物学

まず大きな一つの疑問が、進化論の基盤が生殖可能性の最大化であれば、なぜ同性愛者が進化の中で淘汰されなかったかというものである。これについてはいくつかの仮説が提唱されている。

一つは、個体で見れば生殖可能性を引き下げるが、家系全体で見た場合、生殖可能性の平準化に一役買っているという理論である。

世の中の基本原則として平均回帰の法則というものがある。人生生きていればいいことも悪いこともあって、最後にはいいことも悪いこともプラマイゼロで帳尻が合う。これと同じようなことが遺伝でも起こる。端的に言えば、多産で生殖率が高い家系からは、生殖率の帳尻を合わすように同性愛者が生まれやすいというものだ。

例えば、イタリアのパドヴァ大学のシアーニ教授らの研究グループは、女性同性愛者を対象に、そのフィットネス(身体機能の良好性)と父母家系の繁殖率について調査している(※2)。

結果としては、

・女性同性愛者のフィットネスレベルは女性異性愛者よりも4倍低い。

・女性同性愛者の父母家系繁殖率は女性同性愛者のそれよりも有意に高い。

・女性同性愛者の家族に、同性愛者がいる確率は4倍高い。

とのことで、家系の繁殖率を平準化するために同性愛者が生まれるのではないかという仮説が提示されている。

また欧州性科学研究所の研究員、ブリ博士らの研究によれば、小児期に性的不一致を感じた人はそうでない人よりも生涯の異性との性交渉経験が多いことが示されている。このことから同性愛者というのは本質的に生殖性が高いのではないかとも論じられている(※3)。

こういった仮説はそうなのかなとも思うが、正直なんだかロジックとして分かりやすすぎて、かえって本当かなと思ったりもする。

ちなみに男性の同性愛者については母体免疫仮説というものがある。これは

①男性生殖器が発生するには、H-Y抗原と呼ばれる抗原がY染色体(雄にしか存在しないもの)に結合することが必要。これによって生殖器が男性化する。

②ところがH-Y抗原は男性にしか存在しないものなので、胎盤経由で母体にH-Y抗原が入ると、それに対応する形で母体の免疫反応として、母体側でH-Y抗体が産生される。

③再び胎盤経由でH-Y抗体が男子の体内に流れ込み、男性分化を促すH-Y抗原の働きを弱める。

④母体側としては、男性を産むごとに免疫反応が強くなっていくので、末の男の子(上に兄が多い男の子)ほど、大量のH-Y抗体の影響を受けやすい。

⑤結果として男性分化が抑制されて、女性化しやすい。

という仮説である(※4)。

動物実験レベルでは証明されているようだが、これでは上記の女性の同性愛者については説明ができず、片手落ちだなとも思う。

同性愛者のパーソナリティ

では同性愛者のパーソナリティにはどのような特徴があるのだろうか。カリフォルニア州立大学の心理学者、リッパ博士はニューヨークに住む男女1500名を対象にアンケート調査を行い、同性愛者に特徴的な性格について調べている(※5)。ちなみに調査項目は以下の通り。

・自身の性的アイデンティティ(異性愛、同性愛(ゲイ・レズビアン)、バイセクシャル)

・ビッグファイブ(性格特性を、開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向の5つの因子で調べるもの)

・性欲の強さ

・職業的性的志向(鉄筋工などの男性的な職業や花屋などの女性的な職業)

・自己帰属の性的志向(自分のことを女性っぽいと思う、男性っぽいと思う、など)

・社会性(セックスに対する感:誰とでもセックスできる、から恋愛感情無しではセックスできない、まで)

・性的魅力(同性または異性に対してどの程度魅力を感じるかの評価)

その結果としては、

・上記項目から、回答者の性的指向性(異性愛、同性愛、バイセクシャル)を66%の確率で予測できた。

・同性愛者は、典型的な男性的回答もしくは典型的女性的回答からの逸脱性が大きかった。

・バイセクシャルの男性は、高い性欲、高い社会性(セックスに対する精神的障壁の低さ)、神経症傾向、低い誠実性を示した。

・バイセクシャルの女性は、高い性欲、高い社会性、(セックスに対する精神的障壁の低さ)を示した。

ということが示されている。

総じて同性愛者には心理学で言うダークトライアド(ナルシシズム、マキャヴェリズム、および精神病質)の傾向があるとのこと。ダークトライアドという言葉は悪いが、政治家や経営者の適性が高いとも言えなくもない。

まとめ

以上を簡単にまとめると

・同性愛者およびその家系は本質的には生殖率が高い可能性がある。

・男性では末の子ほど同性愛者である確率が高まるが、これにはの母体の免疫応答が関与している可能性がある。

・同性愛者の心理的特徴として、男性では神経症的傾向が高く、誠実性が低い傾向があり、男女ともに性欲が強く、セックスに対する精神的障壁が低い。

ということになる。

次回の記事では、ダークトライアドについてまた掘り下げて考えてみたい。

参考文献

(※1)https://news.gallup.com/poll/329708/lgbt-identification-rises-latest-estimate.aspx

(※2)Camperio Ciani, A., Battaglia, U., Cesare, L., Camperio Ciani, G., & Capiluppi, C. (2018). Possible Balancing Selection in Human Female Homosexuality. Human nature (Hawthorne, N.Y.), 29(1), 14–32. https://doi.org/10.1007/s12110-017-9309-8

(※3)Burri, A., Spector, T., & Rahman, Q. (2015). Common genetic factors among sexual orientation, gender nonconformity, and number of sex partners in female twins: implications for the evolution of homosexuality. The journal of sexual medicine12(4), 1004–1011. https://doi.org/10.1111/jsm.12847

(※4)Blanchard R. (2001). Fraternal birth order and the maternal immune hypothesis of male homosexuality. Hormones and behavior, 40(2), 105–114. 

(※5)Lippa R. A. (2020). Interest, Personality, and Sexual Traits That Distinguish Heterosexual, Bisexual, and Homosexual Individuals: Are There Two Dimensions That Underlie Variations in Sexual Orientation?. Archives of sexual behavior, 49(2), 607–622. https://doi.org/10.1007/s10508-020-01643-9

 

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