ヒトの空間無視における皮質下領域の解剖:被殻、尾状核および視床枕
人の脳というのは様々なパーツから出来ていますが、その中でも地味でも重要な領域として皮質下領域というものがあります。
この皮質下領域というのは進化の過程でヒトになって大きく発達した部分である大脳皮質の下にある領域で、
基本的な生命維持や反射的運動、しいては大脳皮質のコントロールにも関わっている生きていく上で非常に重要な領域になります。
今日取り上げる論文は、この皮質下構造のどの領域が半側空間無視が出現する上で重要なのかという点について調べたものです。
対象になったのは脳卒中による右半球損傷により重度の半側空間無視を呈した患者なのですが、
これらの患者のうち、損傷領域が大脳皮質に限局されているもの25名と、皮質下領域に限局されているもの16名(うち9名が大脳基底核損傷、7名が視床損傷)、
さらに右半球損傷で皮質下領域のみの損傷で半側空間無視症状を示さなかったもの16名を対照群として
皮質下領域の中でとりわけ半側空間無視の発症に関係しているのはどこかというのをCT画像から得られた損傷領域を重ね合わせることで調べています。
結果を述べると、皮質下領域の中でも被殻、視床枕、尾状核といった領域が半側空間無視が発症する上で重要であり、
解剖学的にはこれらの領域が大脳皮質の中で半側空間無視の発症に最も関連すると考えられている上側頭回と連絡を持っており、
それゆえこれらの領域が皮質下領域の中で半側空間無視との関連が最も強いのではないかということが述べられています。
上側頭回そのものが損傷されていなくても、これらの皮質下領域が損傷することで間接的に機能不全になることがあるのかなと思いました。
参考URL:The subcortical anatomy of human spatial neglect: putamen, caudate nucleus and pulvinar.
【要旨】
さまざまな研究により、大脳基底核または視床に限定された右半球の病変が空間的無視を引き起こす可能性があることが実証されている。ただし、方法論的な理由から、これら2つの皮質下構造内の空間無視の正確な解剖学的相関は依然として不確実なままである。本研究は、無視患者と対照患者の間で、皮質下病変の解剖学的構造を大脳基底核または視床と比較することによって同定した。分析によると、被殻、視床枕、そしてより少ない程度であるが尾状核は、ヒトの空間無視に典型的に関連する皮質下構造であることが明らかになった。これらのすべての構造は、上側頭回(STG)への直接の解剖学的関係を持っている。そして、それは近年ヒトの大脳皮質における空間無視の神経相関として確認されている。これらのことから、右被殻、尾状核、視床枕および上側頭回は、ヒトにおける空間無視の発生において一貫した皮質 – 皮質下解剖学的ネットワークを形成すると考えられる。