自閉症スペクトラム障害児の発達と多感覚情報処理の関係とは?
人間というのは生まれてから死ぬまで発達していく生き物ですが、
この発達の基礎になるのは外部の情報をどれだけ上手に取り込めるかということがあります。
見るもの、聞くもの、触るもの、様々な情報を通して脳に刺激が与えられていきますが、
私達の知覚というのは多くの場合複合的なものです。
画像つきの音楽を聞いているときとただ音楽を聞いているとき、
あるいは雑然とした盛り付けの食事を食べているときと、丁寧で美しい盛り付けがされた食事を食べているときでは感じ方が違うように
私達の脳は異なる種類の情報(視覚と聴覚、視覚と味覚)を統合して感じられるような仕組みを持っています。
このような仕組みがあるので、生後まもない乳幼児は母親の表情や声色、視線の向きなどの複合的な情報を統合して言葉を覚えていきますし、
あるいは他者の心、他者の意図というのを読み取る能力を身につけていきます。
自閉症スペクトラム障害では、しばしば言葉の発達の遅れやコミュニケーションの困難さが現れますが、一説によると自閉症スペクトラム障害では異なる種類の情報を統合することが苦手であり、
それゆえ言葉や社会性といった能力の発達が遅くなるのではないかということが考えられています。
今日取り上げる論文は、高機能自閉症スペクトラム障害児と定型発達児を対象に視覚情報と聴覚情報の統合能力を測る課題を行わせ、その時の脳波の測定を行ったものです。
結果を述べると、やはり高機能自閉症スペクトラム障害児では低年齢ほど視聴覚の情報統合が不完全で、
こういった傾向は情報が示されたごく初期の段階(100ミリ秒)の違いとして示されること、
またこの時の情報処理の仕方は定型発達と異なる仕組みでなされているのではないかということが脳波から得られたトポグラフィ図から示されています。
一つの情報に集中できるというのは、自閉症スペクトラム障害の一つの強みだと思うのですが、やはり複数の情報を取りまとめることの苦手さが、基本的な能力を獲得する上でのボトルネックになっているのかなと思いました。
【要旨】