細胞からネットワークレベルまで:自閉症スペクトラム障害の抑制機能の問題
何かを定義するというのはずいぶん難しいのですが、
現在自閉症スペクトラム障害は、その行動パターンから定義されています。
高血圧やがんなどを扱う内科系の疾患と違って精神科疾患では明らかなバイオマーカー(生物学的指標)になるようなものが少なく、
これは自閉症スペクトラム障害も例外ではないのですが、
自閉症スペクトラム障害を定義づける上で役に立ちそうなバイオマーカーというものはないのでしょうか。
今日取り上げる論文は、神経細胞の抑制機能に関連する指標が自閉症スペクトラム障害のバイオマーカーになりえないかについて検討したものです。
神経細胞というのは互いに繋がり合っており、つながった先の神経細胞を興奮させたり抑制したりして情報のやり取りを行っています。
脳の中の神経細胞でも抑制機能に関わるものとして介在ニューロンというものがあり、
これは主に神経伝達物質の一種であるGABAを介して、隣接する神経細胞の活動を抑制する働きがあります。
この論文によると自閉症患者の死後の脳を見てみると介在ニューロンにおいてGABA受容体の数が少なかったり、
また脳波を用いた研究では介在ニューロンの抑制的な活動の指標となるガンマ帯域のパワーが少なかったりすること、
またこういった介在ニューロンの抑制機能が弱いことを反映して、顔を見る課題を行っているときの脳のネットワークを調べてみると、健常者と比べて脳内のつながりが減少していることが示されています。
つまり自閉症スペクトラム障害の根本的な原因としてはネットワーク間の抑制機能に関わる介在ニューロンの働きがGABA受容体などの問題により充分でないことがあるのではないか、またこのような抑制機能の問題は脳波、脳磁図などの情報から可視化することができるのではないかということが述べられています。
難しいなと思いました。
参考URL:Inhibition-Based Biomarkers for Autism Spectrum Disorder.
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、その行動から定義された様々ななタイプから構成された障害である。 ASDの予測、診断、重症度および亜型による層別化、長期にわたる介入に応じたモニタリング、およびこの疾患の根底にある生物学の全体的な理解を向上させるためにASDのバイオマーカーが重要であると考える。遺伝子やタンパク質のレベルからネットワークレベルの相互作用まで、さまざまな潜在的なバイオマーカーが現在検討されている。多くの場合、ASDは興奮と抑制の間の不均衡の障害であると考えられており、これらのバイオマーカーは抑制に関連しているものが多い。細胞レベルでの抑制機能障害は、ネットワークレベルにおいて新たな性質をもたらす。これらの特性は、個々の遺伝子または細胞のレベルでの知見よりも完全な遺伝的および細胞的背景を考慮に入れており、生きているヒトにおいて測定することができ、診断バイオマーカーおよび行動の予測因子としてさらなる可能性を提供するものである。この総説では、遺伝子から細胞、ネットワークに至るまで、抑制機能の変性がASDバイオマーカーの探索に複数のレベルでどのように役立つかの例を示す。
※一日一つ限定ですが、個人や非営利団体を対象に脳科学に関するご質問・調査を無料で行います。興味のある方はホームページの「お問い合わせ」ボタンからどうぞ。