夢の本質的な機能とはなにか?人工知能から考える夢の仕組み
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夢とは何か?

私達人間は夢を見ますが、どうも夢を見るのは人間の専売特許というわけでもなく、他の動物、もっとも小さいものでは

実験動物で有名なC. elegans(最初に全遺伝子が解析された小動物)でも夢を見ていることを示唆する研究もあるそうです。

そう考えると、夢というのは進化論的に何らかの必然性があるのではないかというような気もしてきますが、

さて夢の本質的機能とはどのようなものなのでしょうか。

この記事では人工知能における知見と照らし合わせる形で提示された新たな夢の機能についての仮説を紹介します。

現在考えられている夢の機能

なぜ私達が夢を見るのかというのは、太古の夢占いに始まり、前世紀のフロイト、現在の神経科学などで様々な仮説が立てられています。今回取り上げる人工知能と照らし合わせた夢の機能の話をする前に、現在考えられている夢の機能について解説します。

1. 感情の調整

夢が感情の葛藤の調整に関わっているというのはフロイト以来、様々な研究者によって唱えられているのですが、この面については実証的な研究としては十分なものがないそうです。不安や恐怖のリハーサルとしての夢の役割や、感情の安定化を図る感情サーモスタットのような働きをしているという説もありますが、これもやはり仮説の域を出ないようです。

2. 記憶力の強化

睡眠が記憶の定着に必要であるという研究は数多くなされて入るのですが、多くの場合ノンレム睡眠とレム睡眠の両方で記憶の定着に関わる脳活動の変化が引き起こされているため、夢と記憶の定着を直接関連付けることは難しいのではないかと考えられます。

3. 選択的忘却

フィルムの編集でもないのですが、これは夢の機能というのは不必要な記憶のつながりを切って、選択的に消去しているのではないかという仮説になります。

4. 現実問題への準備

夢の中で解決方法が見つかったというエピソードはよく聞きますが、これは現実の中でうまく行かなかったことを夢の中でイメージしてシミュレーションすることでイメージトレーニングしているのではないかという仮説になります。

このように様々な仮説があるのですが、実証に耐えられるものは少ないのが現状のようです。

夢の過剰適合脳仮説

人工知能というのは、半世紀を遥かに回る長い歴史がある研究分野ですが、これはその当初から脳科学と相補的に発展してきたことが知られています。

すなわち脳科学で発見された知見を実装して人工知能のブレークスルーが起こり、

また人工知能で開発された知見や技術をもとに、脳科学の進歩がもたらされるというような形でともに進歩しています。

人工知能分野で最近のブレークスルーといえば神経ネットワークを模して作られたディープラーニングになりますが、

これには当初一つの大きな問題があったそうです。

というのも大量のデータを与えて、何かを認識させるようなモデルを作ろうとするとオーバーフィッティング(過剰適合)の問題が起こってしまうという問題点です。

通常私達は何かを認識する場合、大きすぎず細かすぎず、ざっくりとした認識でものを見たり聞いたりすることができます。

例えば猫であれば、どんな種類の猫でも猫と判断できますし、

鼻をみればどんな形であろうが鼻だというように認識できます。

こういったことができるのは、脳が多くの猫や鼻を見る中で、一つの適切なモデルを作れるからと考えられています(下図左)。

オーバーフィッティングというのは細かく学習しすぎて、猫は猫でも三毛猫とペルシャ猫を全く別の動物として認識してしまうようなモデルを作ってしまう状態になります(上図右側)。

ディープラーニングで有名な研究で「グーグルの猫」というものがありますが、

これはこのオーバーフィッティングの問題を解決したものであり、猫を猫と認識できるモデルを自発的に作ったものになります。

引用:https://car.watch.impress.co.jp/docs/event_repo/gtc2015/693719.html

このオーバーフィッティングを解決した手法が、あえて適度に情報にノイズを入れるというものだったのですが、

夢もディープラーニングと同じように、脳の過剰学習を避けるためにノイズ挿入のような形で情報処理の最適化を図っているのではないかという仮説が提示されています(Hoel. 2020)

赤ん坊が一日の殆どを寝て過ごすのも莫大な新規な情報にさらされて過剰学習のリスクに晒されているためで、

私達が睡眠不足で学習能力が低下するのも、ノイズ(夢)を十分に挿できず、脳が適切なモデルを作れない状態(過剰学習)に陥っているためではないかということも述べられています。

とはいえ、私達は夢であろうと現実の世界であろうと、あたかも世界がそこにあるように感じますが、こういった主観的な感覚はどのようなメカニズムによって睡眠時に引き起こされるのでしょうか。

夢見の神経細胞学的メカニズム

私達は猫を見れば猫だと知覚し、空を見れば青いと思い、バイオリンの音を聞けばバイオリンだと思うのですが、

こういった主観的な知覚は脳の中でどのように処理されているのでしょうか。

神経細胞というのは脳の表面や奥深くに張り付くように存在しているのですが、

一般には神経細胞が縦に重なって六層構造になっており(下図左側)、

 

引用:Wikipedia「大脳皮質」(左)、「錐体細胞」(右)

その中でも第五層の神経細胞が形も大きく、第一層から第四層、第六層に枝を伸ばしてこれらの神経細胞から情報を集めています(上図右側)。

ちなみにこの第二~第四、第六神経細胞層は外部からの入力(視覚、聴覚、触覚)の情報を受け取り、第五層はこれらの情報を取りまとめることで主観的感覚が生じると考えられているのですが、

表層の第一層は内部からの入力、具体的には記憶や情動、意味情報などの情報が届けられる形となっています。

第五層の神経細胞はその長い樹状突起を第一層まで伸ばし、これらの内部情報も取り込んで情報処理をしています。

これらを整理したものが以下の図なのですが、

第一層から届けられた内部情報は第五層の活動を調整して、その場に応じて必要な外部情報を選択的に強調するように働きます。

サッカーをしていればボールが強調して感覚されますし、料理をしていたり、お腹が減っているようなときには食べ物の匂いの情報が強調して感覚されます。

ところが眠ってしまい夢を見ているときには、覚醒時には補助的に働いていた第一層の内部情報(記憶や情動、意味情報)が直接第五層に届けられ、それがそのまま出力されることで外部入力なしに意識的な知覚が生じてしまうのではないかというモデルが考えられています(Aru et al.2020)。

それでは、この第一層の出力が強まったり、第五層の出力が弱まったりするのはどのようなメカニズムに基づいているのでしょうか。

神経伝達物質と夢見の関係

一般に神経細胞の情報伝達というのは、電気信号だけでなく、物質も介して行われています。

というのも神経細胞と神経細胞の間には隙間があり、ここは電気が直接通ることができないため、ノルアドレナリンやアセチルコリン、GABAなどといった神経伝達物質がその中継ぎ役として、情報を運んでいます。

引用:Akira Magazine 「用語解説集 神経伝達物質」

動物実験で調べた結果をまとめると、覚醒時と夢を見ている時、あるいは寝ていても夢を見ていないときには以下のような関係性があり、

覚醒時にはノルアドレナリンとアセチルコリンの濃度が高く、

レム睡眠時の夢見の状態ではノルアドレナリンの濃度が低下して、アセチルコリンの濃度が非常に高くなり、

深い睡眠で夢も見ない状態では、ノルアドレナリンもアセチルコリンも濃度が低下することで、

第一層からの入力と第五層の活動の関係性が調整されて様々な知覚や夢見に関わる精神状態が惹起されるのではないかということが考えられています(Aru et al.2020)。

まとめ

このように私達は夢を見ますが、その主な役割は脳の中で行われる認知モデル構成過程を最適化することで、

具体的には脳が過学習に陥らないように、適度にノイズデータを入れ込んでいるのではないか(Hoel. 2020)、

また夢の中の知覚は通常脇役である第一層からの内部情報(記憶や情動)が第五層を通じて主役のように表に出てくるためであり、

そのメカニズムとしてはノルアドレナリンとアセチルコリンの濃度が影響しているのではないか(Aru et al.2020)、

ということが現在一つの仮説として考えられているようです。

個人的には割と神経質で繊細な人はよく夢を見るのに対し、胃腸が強そうでメンタルも強そうな人で夢をよく見るという人が少ない印象があり。

神経伝達物質がパーソナリティに関係するという議論もありますが(Paris. 2005)

やはり夢見にも神経伝達物質が絡んでいるのかなと思いました。

 

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Aru, J., Siclari, F., Phillips, W. A., & Storm, J. F.  Apical drive – a cellular mechanism of dreaming?.(2020, August 14).  https://doi.org/10.31234/osf.io/vwure

Hoel, Erik. The Overfitted Brain: Dreams evolved to assist generalization.(2020). arXiv:2007.09560

Paris J. Neurobiological dimensional models of personality: a review of the models of Cloninger, Depue, and Siever. J Pers Disord. 2005;19(2):156-170. doi:10.1521/pedi.19.2.156.62629

 

 

 

 

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