精神疲労の脳科学:その回復方法とは?
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はじめに

精神疲労とは、頭や心の使い過ぎから来る疲れである。これは難しい課題に取り組み続けることで生じることもあれば、長時間の単調な作業で生じることもある。精神疲労も一時的なものであれば少し休めば回復できるが、慢性化すると回復にも時間がかかると言われている。今回の記事ではその神経メカニズムと評価方法、回復方法についてのエビデンスを紹介したい。

精神疲労と関連する脳活動

私達の脳の中にはキビキビと仕事を行う部分とぼんやりと考え事をするような部分がある。いくつかの研究データを取りまとめて解析した研究からは、精神疲労では、この二つの脳活動が変わることが報告されている。具体的には、精神疲労が蓄積されていくに連れて、キビキビ脳(右側の前頭前野、運動前野、前補足運動野など)の活動が低下し、ぼんやり脳(デフォルト・モード・ネットワーク;後帯状皮質など)の活動が増加していくというのだ(Salif et al., 2022)。

精神疲労が蓄積されていくに連れて活動が低下する領域(Salif et al., 2022, figurge 2a)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精神疲労が蓄積されていくに連れて活動が増加する領域(Salif et al., 2022, figure 2b)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またこのような脳活動の変化が生じる理由として、老廃物排出仮説というものが紹介されている。これは頭を使うことで神経毒性のある物質(アミロイドβ)が脳の中で作られ、それが脳を刺激してぼんやり感を引き出すのではないかという仮説である。ぼんやり感を引き出すことで、頭の使い過ぎから脳を守っているというのだ。アミロイドβはアルツハイマー病の原因ともされる物質であるが、これが頭の使い過ぎでできるとしたら随分物騒な話でもある。

精神疲労の測り方

精神疲労の評価方法には、心電図や脳波、眼球運動の測定などの生体情報を用いた客観的手法と、アンケートなどの主観的手法がある。心電図を用いた研究では、心拍変動から精神疲労を最大75.5%の精度で予測できることが報告されている(Huang et al., 2018)。

ウェアラブル型心電計(Huang et al., 2018, Figure 1)

 

 

 

 

 

 

 

 

脳波を用いた研究では、後頭部の脳波から運転中の認知疲労を予測する試みが進められており(Wang et al., 2018)、視線追跡システムを用いた研究でも、ある程度の相関が確認されている(Sampei et al., 2016)。

Wang et al., 2018, Fig1

Sampei et al., 2016, Figure 1

 

 

 

 

 

 

精神疲労を主観的に測るものとしては本邦で開発された自己診断疲労度チェックリストがある(小林ら, 2019年)。これは強い疲労感を示す慢性疲労症候群向けのチェックリストを元に開発されたものだが、身体的疲労と精神的疲労を簡便に測ることができる。各項目について「まったくない:0 点」「少しある:1 点」「まあある:2 点」「かなりある:3点」「非常に強くある:4 点」の5段階で評価する。

小林ら, 2019年, 付表1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小林ら, 2019年, 表1

 

 

 

 

 

 

私自身のことでいうと、一時期、体調を崩し、慢性疲労症候群ではないかと思った時期があった。当時のことを思い出すと、身体的疲労が19点、精神的疲労が23点で、心も体も危険ゾーンである。よく働けていたものだとも思う。疲れが気になる人はぜひ一度採点してほしい。

精神疲労からの回復方法

精神疲労はその対処も早めであれば回復も速いと言われている。ではその方法にはどのようなものがあるのだろうか。ドイツのロッホ博士らの研究グループはいくつかの回復方法の効果について比較検討している。その実験では被験者に認知課題を行わせ精神疲労を誘発し、その後4つの方法で回復を促しその効果を比較している。一つはパワーナップ(短い昼寝)であり、被験者は20分間昼寝をすることができる。もう一つはリラクゼーションを促す呼吸法で、これは吸気と呼気が1:2の長さになるような呼吸(この実験では3/6秒、もしくは4/8秒のリズム)を20分間行う。さらにもう一つはこの呼吸法をリラックスできるイメージ(海辺のビーチなど)をしながら行うもので、対照条件としては好きな漫画を読むというものが与えられた。

結果としては、いずれの方法も精神疲労を軽減する効果があることが示されている(Loch et al., 2020)。

Loch et al., 2020, FIGURE 2を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

漫画を読むだけでも本格的なリラクゼーション手法と同じ効果があるというのは意外だが、いずれにしても課題から離れ頭を休ませることが大事なのかもしれない。ちなみに私自身はポモドーロ法というもので精神疲労に対処している。これは25分ごとに5分の休憩をはさみながら仕事を行うものだが、この方法だと確かに疲れがたまらずに仕事をすることができる。興味のある人は試してほしい。

ポモドーロテクニックとは?仕事の生産性を上げる時間管理術

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみよう。

・精神疲労では、認知処理に関わる脳活動が低下する。

・精神疲労を測る客観的な方法や主観的な方法がある。

・短時間の睡眠やリラクゼーション、気晴らしなどで精神疲労を回復させることができる。

生きられる時間は有限であるし、仕事をできる時間も無限ではない。疲れ果てた状態で仕事をするよりも、元気な状態で仕事をしたほうが生産性も高く有意義でもある。こまめに休憩を挟んで、脳を上手に使いたい。

 

【参考文献】

Huang, S., Li, J., Zhang, P., & Zhang, W. (2018). Detection of mental fatigue state with wearable ECG devices. International journal of medical informatics, 119, 39–46. https://doi.org/10.1016/j.ijmedinf.2018.08.010

Loch, F., Hof Zum Berge, A., Ferrauti, A., Meyer, T., Pfeiffer, M., & Kellmann, M. (2020). Acute Effects of Mental Recovery Strategies After a Mentally Fatiguing Task. Frontiers in psychology, 11, 558856. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.558856

Salihu, A. T., Hill, K. D., & Jaberzadeh, S. (2022). Neural mechanisms underlying state mental fatigue: a systematic review and activation likelihood estimation meta-analysis. Reviews in the neurosciences, 33(8), 889–917. https://doi.org/10.1515/revneuro-2022-0023

Sampei, K., Ogawa, M., Torres, C. C. C., Sato, M., & Miki, N. (2016). Mental Fatigue Monitoring Using a Wearable Transparent Eye Detection System. Micromachines, 7(2), 20. https://doi.org/10.3390/mi7020020

Wang, H., Dragomir, A., Abbasi, N. I., Li, J., Thakor, N. V., & Bezerianos, A. (2018). A novel real-time driving fatigue detection system based on wireless dry EEG. Cognitive neurodynamics, 12(4), 365–376. https://doi.org/10.1007/s11571-018-9481-5

小林実夏, 星七海, 堀口美恵子. (2019). 青年女性を対象にした自己診断疲労度チェックリストの妥当性の検討. 人間生活文化研究, 2019(29), 526-536. https://doi.org/10.9748/hcs.2019.526

 

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