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はじめに

人間、やめたくてもやめられないものがある。お酒や煙草などもそうだが、腐れ縁のような人間関係や、SNSやネットニュースなどもそうかもしれない。しかし、なぜ私たちはやめたいものをやめられないのだろうか。

実は脳の中には「好き」を司る部分と「欲しい」を司る部分がある。この2つは重複しつつも、ズレていて、それゆえ「好き」でもないのに「欲しい」だけが残ることがある。このようなときには、好きでもないのに、欲しい気持ちだけが立ち上がり、やめたいのににやめられないという状況になる。

今回の記事ではこの仕組みについて深く掘り下げて考えてみたい。

報酬系とは?

人間、生きるためには欲が必要である。食欲がなければ餓死してしまうし、性欲がなければ子孫を残すことができない。しかし、この「欲」というのは、どのようにコントロールされているのだろうか。

脳の中には報酬系と呼ばれる仕組みがあり、様々な刺激に反応して、わたしたちの行動を引き起こす。肉の焼けるいい匂いに誘われて、ついついステーキハウスに入ったり、ブランドのロゴマークに反応して、ついつい買わなくても良いものを買ってしまうのは、この報酬系によるものである。

報酬系の起源は古く、数億年前の魚類の時代には出来上がっていたが、ヒトにおいてはさらなる進化を遂げている。例えば、ヒトは社会的欲求が強く、誰かと一緒にいたり、認められたりすることを好むが、これはヒト特有の報酬系の発達によるものだと考えられている。さらには薬物依存やギャンブル依存など、様々な依存症になりやすいのも同じ理由と考えられてる。

「好き!」システムと「欲しい!」システム

そして、この報酬系だが、細かく見てみると実は2つの仕組みからできている。

一つは「好き!」システム(liking system)で、もう一つは「欲しい!」システム(wanting system)である。

「好き!」システムは快楽を引き起こす仕組みである。

美味しいケーキを食べたときや、コカ・コーラを飲んだ時、「うまい!」という快感情が引き起こされるが、これは「好き!」システムによるものである。このときには脳の中では、オピオイドやエンドカンナビノイドなどの「脳内麻薬」が分泌される。この脳内麻薬は、報酬系の中でも「快楽ホットスポット」(下の図の赤色部分)に働きかけ、快楽を引き起こす。

Robinson et al., 2016, Fig 1を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

これに対して「欲しい!」システムは、欲しいものを追いかけ、手に入れたい衝動を引き起こす仕組みである。札束や魅力的な異性が示されたサムネイルを見ると、ついついクリックしたくなるが、これは「欲しい!」システムが接近衝動を引き起こすためである。

この「欲しい!」システムを動かしているのは、ドーパミンである。報酬を手に入れた時にドーパミンが分泌されて、この「欲しい!」システムはむくむくと成長する。例えば、何も知らない子どもが生まれて始めてソフトクリームを舐めたときのことを考えてみよう。子どもの脳では、その驚きとともにドーパミンが分泌される。その結果、ソフトクリームに対して「欲しい!」システムが反応しやすくなり、ソフトクリームの看板を見ただけで、買ってほしいとせがむようになる。

薬物依存ができあがる仕組み

人間は他の動物と比べても薬物依存になりやすいことがわかっている。しかし人間は薬物以外にも様々なものにハマりやすい。ワーカホリックやSNS依存などがあるが、このような依存症は薬物依存と同じ仕組みで動いている。

このような依存症は、「好きだ!」システムと「欲しい!」システムが乖離していることから生じるのではないかと考えられている。具体的な仕組みとしては、以下の図を見てほしい。

Robinson et al., 2016, Fig 2を参考に筆者作成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは薬物依存を説明したものであるが、分かりやすいようにSNS依存症を例にとって考えてみよう。

まずあなたは何かをSNSにポストする。すると何かしらリアクションがあり、あなたは「嬉しい!」と感じるが、この時働いているのは「好きだ!」システムである。脳内麻薬が出て、あなたの脳は心地よくとろけることになる。

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しかし、この時、同時に「欲しい!」システムも強化される。その結果、あなたの脳はSNS刺激に対して、より敏感に反応するようになる。今まで気にならなかったSNSアプリの通知が気になるようになり、ついついアプリを開いてしまう。

アプリを開くと以前と同じようにリアクションを確認できるが、以前と同じレベルでは喜べなくなっている。もっと多くのリアクションを得るために、もっと過激なポストを行い、もっとアプリを開くようになる。

この結果、「欲しい!」システムはどんどん強くなり、四六時中、SNSが気になるようになる。SNSをいじるものの、以前より楽しい気持ちにはなれない。楽しくはないのにやめられない。こうしてSNS依存が出来上がっていく。

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まとめ

このように私達の脳には、「好きだ!」システムと「欲しい!」システムの両方がある。

この2つは重複しているものの、必ずしも同じではない。「好きだ!」が下がり続けているのに「欲しい!」だけが強くなり、やめたくてもやめられなくなってしまうのが依存症である。

欲望のない人生はつまらないが、欲望に振り回される人生もつらい。欲望にリードされるのではなく、欲望をリードして生きていきたい。

 

【参考文献】

Robinson, M. J., Fischer, A. M., Ahuja, A., Lesser, E. N., & Maniates, H. (2016). Roles of “Wanting” and “Liking” in Motivating Behavior: Gambling, Food, and Drug Addictions. Current topics in behavioral neurosciences27, 105–136. https://doi.org/10.1007/7854_2015_387

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