ラブホルモン:その種類と効果について
【脳科学専門ネット図書館】会員募集〜ワンコインで世界中の脳科学文献を日本語要約〜

はじめに

愛は複雑な感情である。子供を愛おしいと思う感情も愛であるし、パートナーに対する狂おしい愛もまた愛情である。しかしこういった愛情はどのような仕組みで生まれるのだろうか。今回の記事では愛に関係するホルモンについて詳しく説明したい。

愛の種類

愛は人間にとって普遍的な感情体験であるが、その内実は一様でない。心理学の研究からは、愛には複数の区別できる要素が存在することが示唆されている。

まず、性的な欲求や充足感を伴う情動が存在する。これは特定の相手を想定せずに生じ、性的な興奮や欲求不満として経験される。次に、特定の相手に強く惹かれる情動が存在する。これは相手への関心の高まりや絶えず相手のことを考える心理状態を特徴とし、「恋に落ちる」と表現されることがある。さらに、親密な相手と緊密な絆を維持しようとする情動が存在する。これは信頼や安心感、相手への愛情として経験される。

これらの情動は、時間的に重なり合って生じることもあれば、別々に生じることもある。例えば、恋人に性的魅力を感じると同時に、強い絆も感じるだろう。一方、長年連れ添った夫婦の間では、性的欲求は減退しても愛情は持続することがある。また、不倫するような場合には、配偶者への愛情を保ちつつ、別の相手に性的魅力を感じるということがあり得る。このように、愛を構成する要素が分離して経験されることは、それぞれの情動が心理的にも異なるメカニズムに基づくことを示唆している。

ただし、これらの情動が完全に独立しているわけではない。相互に影響を及ぼし合っていると考えられる。例えば、特定の相手に強く惹かれることで、性的欲求が高まったり、絆を感じる気持ちが強くなったりするかもしれない。逆に、親密な絆で結ばれていると、相手への性的魅力も高まりやすいと想像できる。愛を構成する様々な感情は、複雑に絡み合って私たちの心を揺さぶっているのである。

 

 

 

 

 

 

 

性欲ホルモン

人によって性的欲求の強さは異なり、同じ人でも時と場合によって変化する。思春期に性欲が高まるのは周知の事実だが、これは心の成長だけでなく、体の変化とも関係している。性的に成熟する時期には、性ホルモンの分泌が活発になり、性的な刺激に敏感に反応するようになるのだ。

性ホルモンの調節には、主に脳の視床下部、脳下垂体、性腺(精巣・卵巣)が関与している。脳の中で感情をつかさどる扁桃体や前視床下野などの部位が、性的な刺激に反応して性ホルモンの分泌を促す。脳下垂体からは性腺刺激ホルモンが分泌され、精巣や卵巣でテストステロンやエストロゲン、プロゲステロンなどの性ホルモンが生成される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男性では、精巣から分泌されるテストステロンが性欲に大きな影響を与える。テストステロン量が多いほど、性的欲求や性行動が活発になる傾向がある。テストステロンは脳の視床下部や、情動や記憶に関わる大脳辺縁系に作用し、性的な興奮や意欲を高める。

女性では、卵巣から分泌されるエストロゲンとプロゲステロンが月経周期に伴って変動する。排卵期にはエストロゲン分泌が増加し、性的興奮が高まることが知られている。エストロゲンは脳の扁桃体や視床下部の一部にある受容体に作用し、性行動を活性化させると考えられている。

魅了ホルモン

特定の人に強く惹かれる感情には、ドーパミン、ノルアドレナリン、フェニルエチルアミンなどの神経伝達物質が関与していると考えられている。これらは快感や高揚感、幸福感をもたらす脳の報酬系に多く存在する。報酬系とは、快感を感じたり、行動を強化したりする脳内のシステムのことで、脳の深部にある腹側被蓋野や側坐核、前頭前野などの領域が関わっている。特に腹側被蓋野から側坐核に至るドーパミン経路は報酬系の中心で、目標に向かう行動を促し、好きな相手への注意を高める。恋愛中の人が特定の相手に強い関心を示し、常に相手のことを考えて行動するのは、ドーパミンの作用によるものと考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

ノルアドレナリンは覚醒や注意力、記憶力を高める働きがある。恋に夢中で相手のことが頭から離れず眠れなくなったり、一緒の思い出が鮮明に蘇ったりするのは、ノルアドレナリンの影響だと考えられる。

フェニルエチルアミンは興奮や幸福感を生み出す物質で、カテコールアミン神経系の働きを調節し、ドーパミンやノルアドレナリンの作用を増強すると考えられている。

これらのカテコールアミンは脳の報酬系を中心とする広い領域に作用し、好きな相手への強い関心と執着を生み出す。そしてこの高まった感情が性的な興奮へとつながっていく。

ただし恋する感情は、性的欲求とは別の独立した感情システムだと考えられている。性的欲求が性的快感そのものを求める感情であるのに対し、恋する感情はあくまで特定の相手に惹かれる感情だ。つまり恋する感情は、性的欲求とは別物でありながら、その欲求を特定の相手に向ける働きを担っているのである。

愛着形成ホルモン

他者に対する深い愛情や絆の感情は、性的欲求や恋する感情とは異なる独立した感情だと考えられている。この愛着の感情には、オキシトシンとバソプレシンというホルモンが重要な役割を果たしている。

オキシトシンは脳の視床下部で作られ、全身に運ばれるホルモンである。視床下部は脳の中心部にあり、ホルモンの調整に関わる重要な部位だ。動物実験から、オキシトシンが母性愛や配偶者との絆を強める働きを持つことがわかっている。人でも、オキシトシンが社会性の認知や信頼感、絆の形成に関与することが知られている。

 

 

 

 

 

 

バソプレシンも視床下部で作られ全身に運ばれるホルモンだが、動物実験ではオキシトシンと並んで配偶者との絆の形成や維持に重要な役割を果たすことが示されている。人におけるバソプレシンの働きはまだ十分解明されていないが、オキシトシンと協調して愛着の形成に関わっている可能性が指摘されている。

オキシトシンとバソプレシンは、感情に関わる脳の辺縁系に信号を送っており、この部位の活動が愛着の感情に深く関係していると考えられる。さらに愛する人とのスキンシップが快感を生み、その関係を続けたいという意欲を生むことにも、快感情を司るドーパミンが関与していると考えられている。

まとめ

では、ここまでの内容をまとめてみよう。

・愛は大きく分けて、性欲、魅了、愛着の3つの心理的概念に分けられる。

・性欲にはテストステロンやエストロゲンなどの性ホルモンが関わる。

・魅了にはドーパミンなどの報酬系に関わるホルモンが関わる。

・愛着にはオキシトシンやバソプレシンなどのホルモンが関わる。

愛は心の問題であるが、ホルモンは身体の問題である。そして心は自由にできないが、身体は生活管理で比較的コントロールできる。もし愛に何らかの問題があるのであれば生活を見直し、ホルモンバランスを整えることで心にアプローチできるかもしれない。健やかな愛を育むために生活を見直してみるのも良いかもしれない。

 

【参考文献】

Fisher, H. E. (1998). Lust, attraction, and attachment in mammalian reproduction. Human Nature, 9(1), 23–52. https://doi.org/10.1007/s12110-998-1010-5

Kumar, A. (2023). Neurobiological Pathways of Romantic Attraction: How do the Neurobiological Pathways Involved in Romantic Attraction Parallel Those Involved in Addiction and Reward?. Intersect: The Stanford Journal of Science, Technology, and Society17(1). https://ojs.stanford.edu/ojs/index.php/intersect/article/view/3088

Seshadri K. G. (2016). The neuroendocrinology of love. Indian journal of endocrinology and metabolism20(4), 558–563. https://doi.org/10.4103/2230-8210.183479

最新の学術情報をあなたへ!

脳科学コンサルティング・文献調査・レポート作成・研究相談を行います。マーケティング、製品開発、研究支援の経験豊富。納得のいくまでご相談に応じます。ご相談はこちらからどうぞ!

 

脳科学専門コンサルティング オフィスワンダリングマインド

脳科学コンサルティング・リサーチはこちら!

脳科学を中心に、ライフサイエンス全般についてのコンサルティング・リサーチ業務を行っております。信頼性の高い学術論文を厳選し、分かりやすいレポートを作成、対面でのご説明も致します。ご希望の方にはサンプル資料もお渡ししますので、お問い合わせからご連絡くださいませ!