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バスケットボールのフェイントはなぜ有効か?

バスケットボールでは、しばしば相手を混乱させる目的で、ボールを投げる方向とは関係のない方向に視線を向けたり投げるような素振りをしたりします。

こういったフェイントを仕掛けることで相手の反応が遅くなったり間違ったりしますが、なぜこういった事が起こるのでしょうか。

またリハビリテーションなどの臨床場面では、しばしば患者の機能を引き出す目的でボールの投げ渡しを使った練習をしますが、反応が乏しい患者さんにはボールを投げる方向(右/左に投げますよ)を事前に言ったり、あるいは視線を投げる方向に向けることで上手に取れるようになります。

これは前記のフェイントの逆バージョンになるのですが、なぜこのようなことで患者さんはボールを上手に受け取れるようになるのでしょうか。

こういった現象を理解する鍵になる概念としてワーキングメモリというものがあります。

ワーキングメモリとは?

ワーキングメモリというのは日本語で言えば作業記憶ということになるのですが、

これは大雑把に言うと、何かをするためにある情報を短期間頭の中にとどめておくような記憶になります。

例えばパスワードを入力するようなときには数字の並びを覚えて置かなければいけませんし、電話を受けながら部署や名前、要件を聞き取るときにも、僅かな時間それらを頭の中にとどめておく必要があります。

このように短時間、何かの作業を行うために頭の中に留めるような記憶をワーキングメモリというのですが、こういったワーキングメモリは数字のようなものだけではなく、視覚的なワーキングメモリもあることが知られています。

ある認知症のテストでは物品を5つ出して、患者さんに覚えてもらい、それを隠して何個思い出せるかを評価するものがありますが、ああいったものは視覚的なワーキングメモリを評価していることになります。

しかしながら視覚情報というのは2つの情報から成り立っており、これは空間的情報(それがどこにあるのか)と意味的情報(それがなんなのか)で、これらの情報は脳の中でも異なるシステムで処理されることが知られています。

参考URL:「対象の動作に関連した性質は腹側経路においてその表象が形作られる」

これと対応するように、視覚情報に関するワーキングメモリは空間的ワーキングメモリと意味的ワーキングメモリの2つがあることが心理学的に実証されています。

バタバタと働いていて、「さっきしまったあれはどこにあったっけ?」などというのは空間的ワーキングメモリがうまく働いていないことになりますし。「さっきしまったのは何だったっけ?」というのは意味的ワーキングメモリがうまく働いていないことになります。

しかしながらこの空間的ワーキングメモリとバスケットボールのフェイントはどのように関係してくるのでしょうか。

ワーキングメモリと注意の関係:動作のリハーサルとしての空間的ワーキングメモリ

今日取り上げる論文は、注意機能と空間的ワーキングメモリの関係について脳機能の面でどのような関係があるかについて述べた総説論文になります。

リハビリテーション場面でのボールの受け渡しでもないのですが、視覚刺激に対する反応を調べる心理学実験では、事前に手がかりを与えることで被験者の正答率が上がったり、反応速度が上がったりすることが知られています。

この論文では空間的ワーキングメモリに関わる脳活動と空間的な注意に関わる脳活動を比較した研究を取り上げているのですが、

これらの研究の結果から

・空間的ワーキングメモリに関わる脳活動のパターンと注意機能に関わる脳活動のパターンは類似している

・空間的ワーキングメモリはトップダウン的に視覚情報処理を調整する。具体的には視覚情報処理の入り口に当たる一次視覚野の活動を調整する

ということが述べられています。

バスケットボールでフェイントが有効なのは、間違ったワーキングメモリを与えることで間違った注意を引き出したり、

あるいは半側空間無視の患者さんに視線や声掛けでボールを投げる方向を示唆しても反応が今ひとつなのは、ワーキングメモリと注意機能がかぶっているせいもあるのかなと思いました。

 

参考URL:Overlapping mechanisms of attention and spatial working memory.

 

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